研究実績の概要 |
本研究は、現代アメリカ文学が21世紀に入って伝統的な「アメリカとは何か」という問いから次第に離脱し始めていることを、主に(1)アメリカの若手作家が無国籍な寓話という作風を好んで採用すること、(2)アメリカ合衆国外出身の作家たちが英語での創作を行い、かつ移民のアメリカでの経験という主題を避けていること、の二つの視点を追求したものである。 そのための基盤としては、現代アメリカ文学、特に1980年代から2000年にかけての小説が、いまだに「アメリカ」という問いを中心として展開してきたことを論証する必要がある。その作業は、平成25年度に出版した英語の単著『Outisde, America』にて一つの結実を見た。Don DeLilloやRichard Powersといった作家たちにおける、物語が「外部」を中心に組み立てられていることを中心として、現代作家たちが空間や時間をアメリカ的に把握していることを論じている。 それに並行し、主に2000年以降に登場した(1)の作家たちにおいては、戦争が寓話化され、「アメリカ」を問うものではなくなっていること、あるいは(2)の作家たちと呼応するように、Powersらも作風が「アメリカ」から少し離れつつある瞬間が見られることを、国内外の学会にて研究発表し、後者に関しては平成26年度に論文化した。全体として、アメリカ文学が21世紀に方向性を大きく変えつつあることを多角的に論じる研究となった。 (2)の作家たちについては、Daniel Alarcon(ペルー)やTea Obreht(旧ユーゴスラビア),Miroslav Penkov(ブルガリア)といった、アメリカの外にルーツを持つ作家たちの翻訳を同時に行うことができた。
|