研究概要 |
本年度はこれまでイースター蜂起の史的事実の再検証によって得られた資料を踏まえながら、アイルランド人作家がこの歴史的大事件をどのように描写してきたかについて、James Stephens, Iris Murdoch, Roddy Doyleらの作品を対象に、考察を加えることを主たる作業とした。作品が出版された時期の社会的背景は言うまでもないが、作家の宗旨(プロテスタント/カトリック)や政治的スタンス、さらには時代とともに変化していった事件そのものへの社会的評価といった、様々な外的要因が作家の描くイースター蜂起の表象に影響を与えていたことを最終的に確認するに至った。また、2013年6月にNational University of Ireland, Maynoothで開催された学会 "Modernism, Memory and Media"への参加は、ナショナリスト側の立場を取るアイルランド文学研究者によるイースター蜂起をめぐる言説への理解の一助となっただけではなく、政治・経済的な要因からアイルランドの過去を見つめなす必要性に気付くきっかけともなったという点で特筆に値する。 具体的な実績としては、本年度は社会貢献にも寄与するという立場から、福岡を拠点とする民間団体「日本ケルト協会」が主催するケルトセミナーで「イースター蜂起とアイルランド人作家」と題した一般市民向けの講演を行い、アイルランド研究に関する情報発信を行うと同時に、この歴史的大事件への理解が、東アジア地域の中でどう応用できるかという点についても参加者と共に考える機会に恵まれた。社会科学系の研究会においても、学際的なアプローチに基づく「イースター蜂起と文化ナショナリズム」と題した発表を行い、他領域の専門家からの助言を得られた点も極めて有効であった言えよう。
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