20世紀のアイルランド小説(Iris MurdochやSebastian Barryなどの1960年代以降から2000年初頭にかけて出版された作品)において、イースター蜂起がどのように表象されてきたのか、各時代の世論の変遷と絡めて検証を行った。世論の掘り起こしにあたっては、10年ごとに開催されたイースター蜂起記念行事に着目し、その歴史的行事を歴史研究者やジャーナリストがどのように報道・評価したかという視点から考察する手法を採用した。 特に時代ごとの記念祭への評価を考察するうえで、学際的な視点に基づく"1919 in 1966: Commemorating the Easter Rising" は、本研究を遂行するうえで無視できない文献であった。これによって、50周年行事が開催された1966年のイベントの重要性に改めて着目するきっかけを得られただけでなく、事件そのものを扱わなかった小説作品に目を向ける意義を見出せたからである。そしてその成果として、社会の変革期でもあった1960年代のアイルランドを舞台としたEdna O'Brienの“The Country Girls”(1960) を精査することで、イースター蜂起への評価が変わった60年代のアイルランド社会に対する個人的解釈を裏付けることが可能となった。 最終的に、100周年を迎える2016年の百周年記念行事の前座となるいくつかの行事やそれらへの評価を確認しながら、これまで20世紀のアイルランド社会において「他者」として疎外されてきたアングロ・アイリッシュ(Anglo-Irish)の立場からの視点を踏まえたうえで、アイルランド文学におけるイースター蜂起の表象がもつ意味を総括するに至った。
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