研究概要 |
本研究は、D. H. Lawrenceを中心とするいわゆるモダニズムのキャノンとされるテクストと、当時は広く読まれながら現在は忘れ去られたポピュラー・フィクションとを併置し、それらを戦争による社会浄化論、帝国の衰退と維持といった19世紀末から戦間期にかけて流布したイデオロギー的観点から分析するものである。 今年度は先年度におこなったLawrenceの“The Thmble”とBerta Ruckの“The Infant-in-Arms”の分析に加え、さらにRuckの他の作品およびIan HayのThe First Hundred Thousand、Florence BarclayのMy Heart's Right Thereといったテクストも俎上に乗せ比較・分析をおこなった。 また今年度は新たに、炭坑を舞台にしたLawrenceのテクストと、1930年代に隆盛を極めた、労働者階級出身の作家によるテクストとの比較・分析をおこなった。まずこの研究の前段階として、19世紀後半における炭坑夫詩人Joseph Skipsyおよび炭鉱文学の生みの親とされるEmile ZolaのGerminalの分析をおこない、炭鉱文学の系譜における両者の位置を確認した。それを踏まえ、1920から30年代のJames C. Welsh, The Underworld、Harold Heslop, Last Cage Down、Walter Brierley, Means Test Man、Lewis Jones, Cwmardy、J. B. Priestley, English Journey、George Orwell, The Road to Wigan Pierといったテクストを分析した。その中で分かってきたのは、30年代には、労働者階級出身の作家による作品の系譜と、中産階級出身の作家による労働者階級を対象としたルポルタージュの2つの系譜があるということである。 この点を踏まえテクストを分析することで、二つの階級に対するアンビバレントな感情を持ち続けたロレンスではあるが、そのテクストには中産階級的イデオロギーとの強い親和性があることが明らかになった。この研究は引き継づき次年度に深めていきたい。
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