研究課題/領域番号 |
24520335
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐藤 研一 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (80170744)
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研究分担者 |
藤田 緑 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (10219024)
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キーワード | 国際情報交換 ドイツ |
研究概要 |
佐藤は、まず啓蒙期ドイツにおける東洋人や黒人イメージの伝播の実相を見定めたうえで、通俗劇における異邦人像の対抗軸として、J.M.R.レンツの喜劇『新メノーツァあるいはクンバ国王子タンディの物語』(1774)の古典的インド人像に考察を加えた。そのうえで、この東洋の「高貴な野蛮人」を基軸にして、前年度に発掘した十八世紀ドイツの通俗劇に描かれる東洋人像と比較考定した。その間、夏季休暇を利用して、オーストリア国立図書館において、十八世紀ドイツにおける、とりわけアフリカ黒人の登場する通俗劇の文献調査を行った。また、フランクフルト大学にて、啓蒙期ドイツの東洋旅行記研究者であるC.ヒルメス教授と、当代のヨーロッパ通俗劇に広くみられる多文化主義の問題に関して討議を交わし、知見を深めた。さらに、ドレスデン国立美術館の武具や陶磁器や絵画等の展示を通して、書物からだけでは、到底窺い知れない十八世紀ドイツとオスマン・トルコおよび中国との文化交流の実態の一端に触れることができた。目下、当代通俗劇の異邦人像にみられる多文化主義の特徴に分析を施し、その意味について考察中である。 藤田は、黒人奴隷の登場するビカースタフのコミック・オペラ『南京錠』(1768)より20年前に発表された、通俗劇か否かは議論の分かれるサミュエル・ジョンソンの『アイリーニ』を取り上げ、褐色系の異邦人が登場する十八世紀イギリス戯曲の系譜との関連も含め、考察を加えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
夏季休暇を利用し、オーストリア国立図書館にて、主として啓蒙期のアフリカ黒人登場の通俗劇の発掘に努めたものの、調査は難航した。しかし、フランクフルト大学においては、啓蒙期旅行文学研究者のC.ヒルメス教授と、当代英独の通俗劇、なかでもコッツェブーの通俗劇に顕著な「啓蒙の意匠」に関して、実り多い討議を交わすことができた。のみならず、ドレスデン国立美術館におけるザクセン王国とオスマントルコや中国との文化交流の芸術的表現を実際に目にしたことから、異文化摂取の問題に関して多くの示唆を得た。
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今後の研究の推進方策 |
佐藤は、まずJ.M.R.レンツによるプラウトゥス喜劇の翻案劇『友愛はエゴイズムに勝つ、あるいはアルジェの人々』(1775作、1991刊)および若きレッシングの喜劇『ユダヤ人』に描かれる正統的「異邦人」像を、通俗劇の異邦人像の対抗軸として考察を加える。前者の古典的北アフリカ人像であれ、後者のヨーロッパの「内なる異邦人」像,すなわち古典的ユダヤ人像であれ、それを通して、キリスト教的ヨーロッパ世界が相対化される点に着目しながら、これまで発掘した種々の通俗劇の異邦人像の特質を対比的に考察する。また、夏季休暇を利用して、フランクフルト大学の啓蒙期旅行記研究者C.ヒルメス教授と、当代ドイツ通俗劇の描く異邦人像に関して、汎ヨーロッパの視点から討議を交わす。さらに、オーストリア国立図書館にて、主としてユダヤ人登場の通俗劇に関して調査をする。それと同時に、ザクセンのレッシング博物館にて、喜劇『ユダヤ人』の関連文献の調査を行う。最後に、十八世紀の古典的劇と比較検討することを通して、どれほど当代通俗劇にヨーロッパを相対視する起爆力が潜むのか、検討を進める。 藤田は、引き続き褐色系の人々が登場する十八世紀イギリス戯曲を発掘し分析を施したうえで、佐藤とドイツとイギリスの通俗劇の比較を試みながら、影響関係について協議する。
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次年度の研究費の使用計画 |
理由のひとつは、購入予定のドイツ語古書シリーズが、どうしても手に入らなかったこと、もうひとつは、春季休暇にも、オーストリア国立美術館にて文献調査に努める予定であったが、体調不良のため、海外出張が不可能となったことである。 今年度もまた、夏季休暇を利用して、オーストリア国立美術館にて、とりわけユダヤ人の登場する十八世紀ドイツの通俗劇の発掘に努めるとともに、ザクセンのレッシング博物館にて、ユダヤ人関係の文献調査も行う。さらに、フランクフルト大学において、啓蒙期旅行文学研究者のC.ヒルメス教授と、当代ドイツ通俗劇に登場するアフリカ黒人、トルコ人、インド人およびユダヤ人ら異邦人像について、ヨーロッパ全体を視野に入れながら、啓蒙思想との関連から意見交換する予定である。
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