まず、レンツによるプラウトゥスの翻案劇『アルジェの人々』(1775作)が、いかにキリスト教的ヨーロッパを相対視するのかを明らかにしながら、「古典的北アフリカ人像」の特徴を見定めた。 ついで、夏季休暇を利用して、オーストリア国立図書館にて、非ヨーロッパ人――北アフリカ、カリブ海沿岸中南米、南洋の島々、インド、トルコ等の異邦人――の登場する十八世紀ドイツ戯曲に関する調査を行った。また、フランクフルト大学では、比較文学研究家ヒルメス教授と十八世紀旅行紀にあらわれる多文化主義の問題について討議を交わした。さらに、ドレスデン国立美術館では、武具や陶磁器や絵画等の展示を通して、書物からは到底窺い知れない十八世紀ドイツとトルコ、あるいはアフリカやインドや中国との文化交流の実態に触れることができた。ライプツィヒ市立図書館では、十八世紀ドイツの宮廷人から農民に至る日常の暮らしを描く絵画を多数確認し、当代ドイツ文学理解に資すること大であった。 これを踏まえて、レッシングの喜劇『ユダヤ人』(1754)に考察を加えて、当代ヨーロッパに巣食うキリスト教中心主義を析出しつつ、いわばヨーロッパの内なる非ヨーロッパというべきユダヤ人像の特色を明らかにした。目下、この「古典的ユダヤ人像」や「古典的北アフリカ人像」を基軸にして、夏休暇に調査した戯曲の非ヨーロッパ人像を逆照射している。それと同時に、これらドイツの戯曲と英国の戯曲の相互影響関係について、当代汎欧的に流行した小説『ロビンソン・クルーソー』(1719)や『インクルとヤリコ』等を手掛かりに考察を進めている。
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