研究概要 |
本年度は以下の研究を行った。 (1)ブルゴーニュ版ボエティウス『哲学の慰め』のテキストに関して、ウィーンのオーストリア国立図書館に所蔵されている写本2642番の CD-Rom と、M. Bolton-Hall による校訂版 (M. Bolton-Hall, "Del Confortement de Philosophie", Carmina Philosophiae: Journal of the International Boethius Society, 5-6, 1996-1997) とを比較検討し、確実なテキストの作成を進めた。(2)各種辞書における『哲学の慰め』の引用を再検討し、それらの解釈の妥当性を文献学的に調査し、間違いは訂正し、合わせて、ブルゴーニュ版『哲学の慰め』の該当箇所と比較した。(3)さらに、ブルゴーニュ版『哲学の慰め』に含まれる、歴史的・地理的に注目すべき単語・表現を収集し、この作品の意義を裏付ける点を強調し、フランス語史ならびに言語地理学における従来の知見を補完した。(4)1298年頃に作られたジャン・ド・マンによる『哲学の慰め』とブルゴーニュ版『哲学の慰め』を照合し、前者がいかに後者を活用しているか、その特徴を具体的に検討し、単語・表現のレベルでの異同の研究を通して従来のフランス語史の知見を補足した。(5)関連する中世フランス語作品を収集し、それらを批判的に検討し、補足的な情報を収集した。(6)地方語の問題に関しても同様に言語地理学の成果を活用すべく、研究書・論文を調査し、その研究によってブルゴーニュ版『哲学の慰め』の作者が使用している地方語を浮き彫りにする作業を行った。
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