研究課題/領域番号 |
24520338
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川中子 義勝 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (60145274)
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キーワード | 聖書詩学 / 予型論 / 神義論 / 詩的主体 / 語り手人称 / 讃美歌 / コラール |
研究概要 |
本研究は最終的に「聖書詩学」の系譜を叙述することを目指している。そのために、宗教的修辞の展開(「予型論」の系譜)と叙述の目的論的意識(「神義論」の変遷)という二つの主題を縦糸と横糸とし、両者を織り上げる「詩的(文学的)主体」の形成を追求し、これを「詩的人称」の発現としてを跡づけていく途を採る。 昨年度は、この「詩的主体の形成」という新しい考察の軸を据え、その変遷の姿へ接近を計る道筋として、まずは知識社会学的な方法に習熟し、本研究へ適用する仕方について考察を深めるべく努めた。本年度もこれを継続し、従来の文学史理解の枠組みを批判的に読み直し、問題性を押さえつつ、新たな枠組みを提起する可能性を探ったが、具体例を丹念に収集していく作業に重点を置いた。 加えて、本年度は、本研究が掲げる「聖書詩学」の下図を描くべく、修辞や文体における主体形成のあり方を軸として、まずは「詩的主体の形成」の強靱さと「二人称的発語」との関係を文体的に闡明することに努めた。「詩的主体」の「一人称的」言辞が現実に対して「二人称的」に関わる、その仕方を問うために、具体例を広くドイツ文学を越えた地域・時代にも求め、表現・修辞の二人称性を系譜的に跡づけようとした。その際に、F・シュタンツェルの物語論やB・ゾルク等の「詩的〈私〉Lyrisches Ich」論など現代の文学理論をも参照し、「詩的人称」の発現における「詩的主体の形成」の問題を捉え直そうとした。 これらの目的のために、夏期休暇中に、B・ガィェック教授とのこれまでの交友関係によって、支援が期待できるレーゲンスブルク大学の図書館を中心に、関連する資料の収集にあたった。本年は文学作品をも収集の対象にしたが、R・シュレーダーなど普通の(ことに日本における)ドイツ近現代文学の記述に載らない詩篇や、エッセイなどに主に目配りをして収集しを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は「詩的主体の形成」という新たな軸をたてて、社会と時代の広い裾野を展望した上で、傑出した主体としての詩人・作家の存立を問い直し、その生成過程を見定めることを目指している。これを修辞の問題として取り上げ、物語理論の「語り手Erzaehler」研究や「詩的〈私〉lyrisches Ich」研究の方法に則り、「詩的主体」が「詩的人称」として発現する姿を問おうとしている。本年度はその一環として、「詩的主体の自覚」に関わる個人と共同体との関わり意義を問い、共同体の財としての詩が次第に傑出した個人に収斂してゆき、詩人の主体的自覚が醸成されていく過程を問題とした。「詩の自覚の歴史」と題して、広くドイツ文学の枠を越え、万葉初期の短歌成立期、ギリシャ抒情詩の成立期、ヘブライ預言者の告白録、ドイツ・コラール生成期を併行して扱う文章を纏めた。本主題の射程が各国文学の枠を越えるためであるが、「二人称的言語」の役割を扱う意味では一貫している。そうした観点から、日本近現代の社会的状況をも視野に収めつつ、太平洋戦争終結に至るまでに矢内原忠雄が果たした役割を、捕囚期前のイスラエルにおける預言者の状況になぞらえる一文をも著した。昨年度の成果と併せて、これらは、本研究の成果の中心的位置を占めるものとなるはずである。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、修辞の使用やその意識を問う文献の範囲は、詩人・作家を中心に記述する一般の文学史よりも拡大される。このように、本研究の跡づけようとする途は独自なものであり、ドイツでも、また日本のドイツ文学研究でもこれまでまだほとんど顧みられていないため、資料収集には努力と根気が求められる。 昨年度、本年度と、すでにある程度の収集を果たしたが、まだ不十分な点が多い。ピエティスムスやフマニスムスの担い手、またその近代の継承者のような場合、言説の私性・公共性の境が流動的であるだけに、本研究の視点・方法を有効に用いうる領域として意味が大きいので、次年度に再び渡独してこの分野の資料集数に努める。 次年度は、ドイツのブッパータールで第11回国際ハーマン学会が開催されるので、参加して成果の途中発表と意見交換をする予定であったが、開催期間が2月末と最終決定され、本務校の入試時期と重なった。この時期の海外出張は不可能なので、先だって夏期休暇中に資料収集のため渡独し、これと併せて、ガイェック教授他、当地の研究者に途中経過を示し、意見交換をする機会を持つ予定である。 本年度中に、これまで著した本研究関連の文章や、集めた資料の翻訳などを、冊子形態にまとめて、研究会資料として用いたり、各地区の研究者に配布して、意見等を聴く機会を作る予定である。
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