本研究は最終的に「聖書詩学」の系譜を叙述することを目指している。そのために、宗教的修辞(「予型論」)の展開、と創作の目的論的意識(「神義論」)の変遷という二つの主題を縦糸と横糸とし、両者を織り上げる「詩的(文学的)主体」の形成を追求し、これを「詩的人称」の発現として跡づける途をたどってきた。 平成26年度までは、本研究が掲げる「聖書詩学」の下図を描くべく、修辞や文体における主体形成のあり方を中心軸として、まずは「詩的主体」の強靱さと「二人称的発語」との関係を文体的に明らかにすることに努めた。「予型論」的形象の蒐集と秩序づけ、またそこに「神義論」的動機が果たす意義についての検討が作業の中心をなした。 平成27年度は、平成26年度に引き続き、以上の営みを統一的に秩序づけるために、「詩的主体」の「一人称的」言辞が自然や社会の現実に対して「二人称的」に関わっていく、その仕方を跡づけることに努めた。抒情詩における「詩的一人称」の多様性を考察した「詩的〈私〉Lyrisches Ich」論など現代の文学理論をおもに参照した。そのうえで、「詩的人称」の発現の仕方に示される「詩的主体」の問題について、「二人称の詩学」と題して執筆した。この論文とJ・G・ハーマンの思想の要約を公表することをもって、本年度のまとめとした。 「聖書詩学」の視野の及びうる範囲は広く、こうしたドイツ語圏を中心とした作業の際に、身近な日本の詩や思想の系譜にも同じ志向を見出すことになり、「詩の自覚」の問題や、近現代における「聖書詩学」の系譜の叙述をも、作業に含めた。この方面でもいくつか成果を公にしたが、それらをも含めて研究全体を再構成できたと思われる。 夏期休暇中には、交友関係にあるベルンハルト・ガイェック教授と、これまでの経過について意見を交換した。これを踏まえて最終的に書物の形にまとめることを目指している。
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