19世紀後半から20世紀めのロシアにおける「顔」の主題の変容を、小説論/絵画論/理論研究を交差させながら検討するために、最終年度にあたる本年度は次の研究をおこなった。 1.小説論においては、『白痴』(1868年)および『悪霊』(1871-72年)を中心に、ドストエフスキーの小説における顔の主題と、その歴史的背景の検討をおこなった。(1)前年度末にペテルブルクのロシア・ナショナル・ライブラリーで収集した資料の検討を継続し、ロシアにおける観相学受容の特徴を調査した。(2)『白痴』と『悪霊』における「外傷的な視覚」の分析をおこない、国際中欧・東欧研究協議会(ICCEES)第9回世界大会で発表した。(3)『悪霊』の削除された章「チホンのもとで」に関する研究成果をもとに、その新しい翻訳を作成した。 2.絵画論においては、マレーヴィチの作品および理論的著作を同時代のアヴァンギャルド芸術のなかに位置づけるために、マレーヴィチとほぼ同時に無対象絵画の探究を開始したカンディンスキー(『芸術における精神的なもの』)や、スクリーン上の顔に関する初期の映画理論家たちの著作(バラージュ『視覚的人間』『映画の理論』、エイゼンシテイン『クロース・アップの歴史』ほか)との比較検討をおこなった。 3.理論研究においては、(1)外傷的な視覚に関するラカンの論考(『精神分析の四基本概念』)、(2)小説のエクリチュールとレクチュールにおける身体の役割に関するポドロガの論考(『ミメーシス』)、(3)写真アーカイヴと観相学的知の関係に関するセクーラの論考(Dead Letter Office)ほかを検討した。
|