本研究では19世紀後半から20世紀前半のロシアにおける人間の顔という主題に注目し、文化史におけるその意義を明らかにすることを試みた。この主題は、ドストエフスキーの『白痴』や『悪霊』をはじめとする具体的な作品分析と、理論研究(キリスト教神学における神の表象不可能性、外傷的な眼差しという精神分析の観念など)の両面から検討された。ドストエフスキーの小説やマレーヴィチ、エイゼンシテインの理論的著作の分析によって、この時期の顔の表象が、写真の誕生と発展のインパクトによる観相学的想像力の歴史的変容を反映していることが明らかになった。
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