研究課題/領域番号 |
24520342
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
逸見 竜生 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (60251782)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 国際研究者交流 / フランス / スイス / イタリア / 韓国 / アメリカ |
研究概要 |
本研究では、研究期間内に以下の3点を明らかにすることを目的としている。 I. 比較照合法による黙示的典拠の特定:医学・生理学および関連分野に分類される『百科全書』項目について、ディドロおよびジョクールの執筆項目を解析しi)具体的にいかなる黙示的テクストが材源として用いられているか、ii)その範囲はどの程度に及ぶか、iii)材源の選択に執筆者ごとの差異は見られるかについて、同時代コーパスの比較照合法によって特定する。II. 本文における材源の転用様態の解明:黙示的典拠はいかにテクスト本文のうちに組み込まれているのか、それぞれの引用者による原テクストの「転用」(appropriation)の具体的様態の比較分析を行う。III. 転用の行為ないし意図の歴史的解釈、である。 本年度は主にIを扱い、本研究の材源の特定に際しては、本文巻全17巻のうち初巻(1751年、A-Azymites)より、出版が禁止されて刊行形態が地下=匿名文書化する直前まで、毎年出版の継続された第7巻(1757年, Foang-Gythium)までを『百科全書』の対象資料とした。具体的には本文と同時代の総合辞書(主にChambers, Trevoux)、専門事典(James, Lemery, Chaumel等)、専門書(Le Clerc『医術史』、Boerhaave、Hoffmann、Stahl等基本医学文献)、学術機関誌(パリ王立科学アカデミー提要および報告等)等、基本資料の蒐集と整理、およびこれら資料との比較照合法による材源の特定に関する研究と、②特定された当該材源のジャンル、執筆者、刊行時期、刊行地などの材源特性の解明、および執筆者によるその使用頻度、項目分類との関連、使用時期(刊行年次の差異など)、材源の利用特性について検討し、その特徴を資料の画像電子データ等を用い解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在まで、研究は計画通りほぼ順調に推移している。主に三つの観点からこれを整理すると、以下のようになる。 a ) 材源研究および言説史分析に伴う資料蒐集と解析。底本とする『百科全書』パリ原本および同時代辞書や医書などのうち基本文献については未所有のものやアクセスしがたい資料に関しては、国内ないし海外にて継続的な資料蒐集・調査を行ない、研究計画に予定していた資料の蒐集とその解析はおおむね目的を達成できている。 b) 材源特性および材源利用特性研究。 主に『百科全書』第1巻から第4巻までのディドロおよびジョクール執筆項目を抽出し、a)の作業を経てその特性の解明を行った。特に、今年度は、従来指摘されてこなかった17世紀末ジュネーブを中心とするユグノー・コミュニティにおける学識的書籍、定期刊行物、さらに辞書的ネットワークと『百科全書』の内容の文献学的連続性を実証的に評価する方法を発見しえた。特に問題なのは、ダニエル・ルクレール『医学史』(1669)における医学的ヒストリオグラフィの詳細がいかなる形でベーコン、ロックらの英国実験哲学と交叉し、その内容に対する変容を作り出しているのか、さらにこの議論がいったん英国に還流して18世紀初頭のレキシコグラフィーに統合された後、フランスへと流れている知の文化的転位の様相が具体的に理解できた点である。 c) 研究成果の初年度公開。 2012年9月に東京にて開催された日仏哲学学会シンポジウム、『百科全書』国際シンポジウム、11月に開催された日本フランス語フランス文学会東北支部大会シンポジウム、および本年3月にマルセイユ、パリにて行われた『百科全書』研究国際シンポジウムのいずれもに招待され、5度の研究招待発表を行い、研究内容を国際的に公表できる機会を得た。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の第II群およびIII群に進む予定である。 II. 主たる転用様態の解明 来年度は、予備的調査として申請者がその一端をすでに論じたように、『百科全書』の言説実践の独自性の解明の上できわめて重要なポイントであると予想しており、材源の利用のカテゴリーに論理的には含まれつつも、それとは別に独立して扱われるべきものとして捉える。この第II群では、特に次の二点を研究の対象とする。①解明された材源の「転用」(appropriation)という能動的概念に基づき、ディドロやジョクールが各種の材源をいかにみずからの文章に取り入れ、変容させていったか、多角的かつ包括的な転用様態の記述。 ②ディドロ、ジョクールの①に関する手法の差異の導出。 III 転用行為の言説史的解釈とコンテキスト化 この第III群では、第I群および第II群で示された転用行為の意味を包括的・批判的に解析する。これらの黙示的な転用行為およびその「意図」(「発語内的力」Skinner, 1988の概念をここでは援用することができる)は、言説史の地平、すなわち18世紀啓蒙期文芸的公共圏における言説生産の慣習、制度、イデオロギーというコンテキストに位置づけることによって、より系統的に解釈しうる。そこでまず、同時代の①辞書・辞典、②人文主義的な医学書、医学誌の二つの言説領域の歴史的特性の解明を図る。これらはいずれも過去から継承された文書や記録のアーカイブを作成し、その集積と編纂を行い、体系的・総合的な知の再構築を目指す言説である。ルネサンス期以後、人文主義的な歴史記述の常数となった「古事学=学識(eruditon)」の伝統にどちらも属しているという意味では、ともに同じ言説実践に属する領域でもある。
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次年度の研究費の使用計画 |
1)設備備品費・消耗品費 研究を円滑に進めるために、本研究では材源研究のため、現有のものの他に相当数の実際の資料(『百科全書』関連、材源調査用資料、ディドロおよびジョクールに関連する資料)が必要となる。また、それらの一部を電子処理化した画像データやそのOCR情報を多用する。そこで消耗品として資料の電子複写、OCR化のための機材類(PC周辺機器およびソフトウェア)を計上した。設備備品費は次年度以後も継続的に必要とする。また消耗品として、平成25年度・平成26年度には、文書間の比較照合を補助する画像比較処理ソフト、画像情報用データベース、および画像処理用サーバクライアントソフトなどの購入も予定している。 2)旅費 a)資料調査活動:国内外の図書館や研究機関に所蔵されている、種々の原典・原資料を調査する資料調査活動としての旅費を、これまでに行った類似の研究で必要となった額をもとに算定した。b)学会・研究会活動:研究期間内に申請者は継続的に『百科全書』本文研究に関する国内外の研究グループとの共同研究を行う。25年度においては海外にて開催される国際学会・研究会に招聘・参加の予定が3件ある。 3)人件費・謝金・その他(複写費) 電子複写処理に関わる業務として大学院生用の謝金として10万円の謝金を計上する。「その他」としても、図書館・研究機関等に支払う複写費用として同じく5万円を計上している。
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