1.バルザック『セザール・ビロトー』およびこれと緊密な関係を持つ同時期の作品について関連書籍や資料を広く参照し、テクストの成立のクロノロジカルな諸段階や刊行の経緯、またとりわけ当時の受容の状況について情報の整理を行った。また、生成論全般についての資料収集を行い、最新の調査方法論の進展を確認した。 2.フランス学士院ロヴァンジュール文庫で『セザール・ビロトー』の作品生成資料を参照し、その諸段階を整理し、関連箇所を転写する作業を行い、転写版を完成させた。 3.2の調査記録をもとに同作品の生成過程の分析を行い、研究ノートを作成し、また論文の準備を進めた。同作品における飲食表象に注目し、その書き換えの過程で複数の再登場人物の導入やこれらの人物キャラクターの設定の変容が生じたこと、またこうして確立した人物像が他の作品の生成にも影響を及ぼしていることを論証し、論文「食卓の登場人物たち――『セザール・ビロトー』の新居祝いの場面の生成」として発表した。また、こうしたバルザックによる社会風俗描写の争点を広く考察する二編の論文、「バルザックにおける『全集』と『知』」、「Monographie du rentier――バルザックによる凡庸社会の分析」を刊行した。 4.上記論文「食卓の登場人物たち――『セザール・ビロトー』の新居祝いの場面の生成」のもととなった「バルザックと食――生成批評の観点から」、バルザックにおける総合的な書物の構築の計画の争点を考察した「バルザックにおける『書物』と『全集』」、バルザックが過去の自作に自己言及しながら王政復古期の社会の変容を描いた異色作の詩学を論じた「『そうとは知らない喜劇役者』――再発見の旅」の三本の口頭発表を行った。 5.作成した転写版および注の全体を見直し、書式を整え、インターネット上に公開した(URL: https://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/arts/prof/kamada_1/docs/CB.pdf)。
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