研究課題/領域番号 |
24520347
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
西川 智之 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 教授 (20218134)
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研究分担者 |
古田 香織 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 准教授 (20242795)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 独文学 / 芸術誌 / 世紀転換期 / ユーゲント・シュティール / 総合芸術 |
研究実績の概要 |
研究代表者である西川は、芸術誌『ヴェル・サクルム』がウィーン分離派の機関誌であるという側面を掘り下げ、特に1900年以降のクリムトのウィーン大学天井画を巡る論争において『ヴェル・サクルム』の果たした役割について考察を行った。また古田は、一般にユーゲント・シュティールの名前の由来としては話題になるものの、具体的な分析が進んでいるとは言えない雑誌『ユーゲント』を、挿絵などを手がかりに様々な角度から捉え直し、この時代に誕生すべく誕生した『ユーゲント』の本質に迫った。 平成26年度は、シンポジウムの開催など、研究成果の公開も積極的に行った。平成26年7月21日には、西川が豊田市美術館において「ウィーン分離派とクリムト―『ヴェル・サクルム』を中心に」というタイトルでスライド・レクチャーを行った。そして7月25日には、ベルリン・ブレーハン美術館前館長のインゲボルク・ベッカー氏を招き、「線は力なり―アンリ・ヴァン・デ・ヴェルデ:ユーゲント・シュティールからバウハウスへ」というタイトルで、名古屋大学で講演を行ってもらった。ベッカー氏には、さらに8月2日の豊田市美術館でのシンポジウムの基調講演も行っていただいた。このシンポジウムには、西川、古田の他に、池田祐子氏、井戸田総一朗氏、高橋麻帆氏にも加わってもらい、「アート(芸術/技)の坩堝 世紀転換期ドイツ語圏の芸術誌」というタイトルで、研究対象への様々な観点から考察を加え、議論を行った。 10月には、前年度のシンポジウムの成果をまとめた「世紀転換期ドイツ語圏の芸術誌の諸相」が、日本独文学会研究叢書として出版された。 現在はシンポジウムの成果などを元に、本研究計画のまとめを行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は、昨年度同様、何人かの研究協力者との研究交流を行いながら、また海外から研究者を招いてシンポジウムを開催するなど、自分たちの研究の活性化を積極的に行った。特に、ベルリンから招いたベッカー氏には、1900年前後のドイツ語圏の芸術様式がヨーロッパ全体の芸術の流れの中でどのように位置づけられるのか、その基本的な枠組みについて、二度の講演を通して知見を得た。特にヴァン・ド・ヴェルドの果たした役割に焦点を当てながらの考察からは、得るところが多かった。 西川は、研究対象として当初、『パン』と『ヴェル・サクルム』を取り上げ、その比較を中心に研究を進めるつもりであったが、残念ながら、『パン』の分析には十分な時間が取れずにいる。しかし、『ヴェル・サクルム』の分析は順調に進んでおり、本研究計画期間中に、その全体像を描くことができるのではないかと思っている。 古田はジャポニスムとの関連で、当時ヨーロッパに伝えられた日本文化の中の、短冊、色紙、刀の鍔などの形や、月、菖蒲、コオロギなどの「自然のモチーフ」がどのように『ユーゲント』の挿絵に用いられているかなど具体的な分析を行うと同時に、編集者ゲオルク・ヒルトの芸術観にも焦点を当てながら、全く別な観点からの考察も加える事で、『ユーゲント』という雑誌のはらむ多様性を明らかにしようとしてきた。とは言え、40年以上にわたって週刊で発行された『ユーゲント』は膨大な量に及んでいるため、残念ながら今のところは、古田の研究は1900年代までが中心となっており、特に第一次世界大戦後の『ユーゲント』までは具体的な考察が及んでいない。しかし、戦間期の『ユーゲント』については、この研究計画に協力していただいている明治大学の井戸田氏が詳しく、井戸田氏の見解なども参考にしながら、考察を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は研究期間最終年度に当たるため、過去3年間の研究の取りまとめを行うとともに、自分たちの研究の問題点ややり残した点を洗い出し、今後の研究につなげていきたい。 当初の計画では、『パン』、『ヴェル・サクルム』という高踏性の強い雑誌と、『ユーゲント』という大衆性の強い雑誌の分析を通じて、当時の芸術運動の孕んでいた相反するとも言える性格について考察を加える計画であった。つまり芸術の純粋性・自律性を追求したいという方向と、芸術を労働者階級などに広く普及させたいという、芸術の大衆化を目指す方向とがどのように芸術誌の中で結びついていたのかを分析する計画であった。 残念ながら、今までのところ、西川が研究を進めるはずであった『パン』の分析が思うようには進んでいない。本研究計画は、今年度が最終年度であるため、『パン』の研究に関しては飛躍的な進展は望めないであろうが、今年度は、当時の芸術を巡るベルリンの状況の研究をさらに進め、『パン』の考察のための新たな方向を探ることで、本研究計画終了後の次の研究にもつなげていきたい。 古田は、『ユーゲント』に見られる挿絵をいくつかのテーマやモチーフに分類し、平成26年度は特にジャポニスムとの関連で分析を進めてきたが、さらに他のテーマの分析をすすめることで、『ユーゲント』の特徴がさらに鮮明に描けるのではないかと考えている。 『ヴェル・サクルム』はウィーンで、『ユーゲント』はミュンヘンで発行されており、この両雑誌の性格の違いは、ウィーンとミュンヘンという都市の性格の違いを反映しているとも言えるが、一方で、当時の芸術家、出版人は、他の都市の芸術家たちと活発な交流を続け、お互いに影響を与え合っていた。それぞれの雑誌の具体的な分析を通して、当時のドイツ語圏の文化・芸術の全体像のようなものが浮かび上がってこないかということも考えながら研究を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
助成金については、的確な使用を心がけ、ほぼ計画通り遂行することができたつもりである。シンポジウムの論文集をまとめるために、3月はプリンタを使用することが多く、トナーカートリッジを買いたかったが、6,629円の残額では購入することができず、結局次年度使用額として残すことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
6,629円の次年度への残額は、平成27年度交付金の一部を加えて、プリンタのトナーカートリッジを購入する予定である。
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