研究課題/領域番号 |
24520356
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
岩本 和子 神戸大学, その他の研究科, 教授 (60203410)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ベルギー文学 / 芸術活動 / ナショナリズム / 多言語・多文化 |
研究概要 |
多言語・多文化国家ベルギーの芸術活動(文学、舞台芸術、映像芸術等)と国家/地域/都市レベル、仏・蘭・独の言語地域横断的な<多層的ナショナリズム>との関係、それらの周縁性や前衛性にも起因する国際性について明らかにすることを本研究は目的とする。具体的にはベルギーの現代作家を主な対象として、ベルギーの神話・伝説・19世紀の国民的文学との比較、検討を通し、また作家の領域横断的な芸術活動にも芸術環境・芸術政策の現状を踏まえつつ注目し、多文化共生(芸術家個人の内面的多層性も含む)や伝統と前衛、ナショナリズムと国際性の意味を問い直す。24年度は以下の成果を得た。 1)ベルギーの言語・民族・多文化状況や歴史に関する文献、文学・芸術関係の文献を収集した。 2)国内外のベルギーをフィールドとする文学、言語、美術、舞台芸術、メディア、歴史学などの研究者たちと意見交換、共同研究会、ワークショップを行なった:ベルギー研究会を関西と東京で1、2ヶ月に一回開催。ブリュッセルで国際研究会を開催し、ヘント大学講師や王立音楽院講師、在ベルギーの研究者たちと意見交換を行った。ルーヴァン・カトリック大学のヴァンデ=ワーレ教授(ベルギー/日本交流史)やヴァノーヴェルベーク准教授(日本政治学)らとワークショップや意見交換を行った。同大学図書館や各都市の芸術文化施設で本研究に関する文献収集をした。 3)ゲルマン地域に伝わる「ウーレンシュピーゲル伝説」に基づいた19世紀作家シャルル・ド・コステルの小説、さらに20世紀作家ヒューホ・クラウスによるオランダ語戯曲への翻案(ライデン大学の学生と上演、さらにその現代版でフランデレン民族主義を戯画化)について研究し論文を執筆、共著『ベルギー研究』(編集責任者岩本)としてまとめ出版予定である。 4)ベルギー現代短編小説の翻訳出版企画を中心的に進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者はベルギーの言語・文学・芸術研究を継続的に行っており、ベルギーの諸大学や図書館、研究者、芸術家、文化施設関係者などとのつながりもあるので、本研究テーマに沿った資料収集や現地調査(9月と2月の2回、2週間ずつ)やベルギー人の研究協力要請を的確に行うことができた。勤務校の神戸大学がヨーロッパとの学術交流の拠点として開設した「神大ブリュッセルオフィス」を活用して現地の研究者との共同研究や研究会を行うことができた。ブリュッセル自由大学、ルーヴァン・カトリック大学とは学術交流協定を結んでおり、大学訪問により直接の意見交換ができた。また申請者は3年前に「ベルギー研究会」を立ち上げ、ベルギー文化に関する学際的な研究活動を行っている。その中でオランダ語・ドイツ語に関する知識の提供を受け、日本初のベルギーに関する学際的研究の論文集の出版が実現することになった。また出版社の協力により「現代ベルギー文学」の翻訳企画も具体化しつつある。24年度に予定していた作家研究(ヒューホ・クラウス、マドレーヌ・ブルドゥクス)も後者はまだ論文の成果にはいたらなかったが、進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
文献収集や整理、国内外の研究者との共同研究や意見交換、を継続して行う。長期的なヴィジョンの研究なので、計画通りに進まない時は本申請による期間中の翻訳・分析対象作家を絞ることも考える。 また現代作家についての文献・資料収集や現地調査を続け、分析を進めていく。対象作家として以下を追加する:1)アメリー・ノトン(1967-):パリの大手出版社から出版しフランスのメディアに頻繁に出るが、ベルギー人でありむしろ無国籍的アイデンティティがあると思われる。ベルギー人アイデンティティやフランスとのずれを分析する。邦訳が殆どなく日本では知名度が低い。自伝的作品を中心に分析・翻訳を行い、ベルギーとヨーロッパや日本をつなぐ活動や前衛的芸術観を探る。 2)ジャン=フィリップ・トゥーサン(1957-):小説作品の殆どが邦訳されていて、特権的に日本でも知名度の高いフランス語作家だが、テクストの合間に見え隠れする「ベルギー性」や主人公「私」のアイデンティティなどについての言及や研究はなされていない。「フランス語圏作家」「ヨーロッパ人」として自己認識をする、現代の無国籍(多国籍)的作家の一典型としての側面を分析検討する。さらに同じブリュッセル在住で交流のある、映画監督ダルデンヌ兄弟の作品を、作家や都市ブリュッセルとのつながりから考察する。 3)戦後生まれの現役作家にも目を向け(研究会での翻訳企画共同研究とリンクする)、ダンヌマルク、ブラスバン、アメダック、トム・ラノワ、などにおける「ベルギー性」の検討と合わせて、これらの成果を有機的につなぎ合わせ、最終的にはベルギー作家の多文化共生(芸術家個人の内面的多層性も含む)や伝統と前衛、ナショナリズムと国際性の意味を明らかにする。 本研究の成果を、論文発表、報告書作成などの形で公表する。著書(論文集)や現代作家の翻訳紹介の形で出版する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
1)ベルギーの文学・芸術・言語・民族関係の図書やDVD,ヨーロッパ、日本、各国のベルギー関係の図書など資料文献収集を継続する。 2)25年度秋に予定されているケベック学会荷おけるケベック/ベルギーの言語・文学・文化政策の研究発表準備を兼ねて、同じフランス語圏周縁地域の芸術文化環境調査のためにケベックとベルギーへの海外出張を行う。さらにブリュッセルでのワークショップ、国際研究会を開催するための海外出張も行う。主催するベルギー研究会が今年から全国規模になったために東京での研究会開催が増える。また出版社との打合せも増える。そのための国内出張旅費を使用する。 3)国内外の研究者による情報提供、資料整理の謝金など。 4)資料整理のためのカメラ、メディア関係用品などの購入を引き続き行う。
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