研究課題/領域番号 |
24520356
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
岩本 和子 神戸大学, その他の研究科, 教授 (60203410)
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キーワード | ベルギー文学 / フランス語圏文学 / 多層的ナショナリズム / 多言語・多文化 / 文化の中心と周縁 |
研究概要 |
ベルギーの芸術活動(文学、舞台芸術、映像芸術等)と国家/地域/都市レベル、仏・蘭・独の言語地域横断的な<多層的ナショナリズム>との関係、それらの周縁性や前衛性にも起因する国際性について明らかにする。具体的にはベルギーの現代作家を主な対象として、ベルギーの神話・伝説・19世紀以来の国民的文学との比較・検討を通し、また作家の領域横断的な芸術活動にも芸術環境・芸術政策の現状を踏まえつつ注目し、多文化共生(芸術家個人の内面的多層性も含む)や伝統と前衛、ナショナリズムと国際性の意味を問い直す。25年度は以下の成果を得た。 1)ベルギーの言語、民族、多文化状況や歴史、文学、芸術文化に関する文献資料を収集し整理・検討した。 2)国内外のベルギーをフィールドとする諸分野の研究者たちと意見交換、共同研究会、ワークショップを行った:ベルギー研究会を関西と東京で1、2ヶ月に一回開催。ブリュッセルで国際研究会を開催し、ブリュッセル自由大学(ULB)、ヘント大学、王立音楽院などの在ベルギー研究者と意見交換を行った。ルーヴァンカトリック大学、ULBの研究者とワークショップを行った。リエージュ大学名誉教授を招き、神戸大学にてフランス語圏周縁文学に関する講演会を開催、意見交換を行った。 3)ベルギー及びケベックにおいてフランス語圏周縁の芸術文化環境(多層性、国際性)を調査、大学などでの文献収集、UBLのP.アロン教授やモンレアル大学ケベック文学研究センター所長デュピュイ教授らと意見交換を行った。日本ケベック学会シンポジウム「ケベックとベルギー:フランス語圏の多元社会」の企画、コメンテイターを務めた。 4)現代作家ブールドゥクスに関する論文を発表した。ベルギー研究共著『ベルギーとは何か?アイデンティティの多層性)』を出版した。ベルギー現代短篇小説の翻訳出版企画を継続して進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者はベルギーの言語・文学・芸術研究を継続的に行っており、ベルギーの諸大学や図書館、研究者、芸術家、文化施設関係者などとのつながりもあるので、本研究テーマに沿った資料収集や現地調査(9月(ケベック及びベルギー)と3月(ベルギー))やベルギー人の研究協力要請を的確に行うことができた。勤務校の神戸大学がヨーロッパとの学術交流の拠点として開設した「神戸大学ブリュッセルオフィス」を活用して現地の研究者との共同研究や研究会を行うことができた。ブリュッセル自由大学、ルーヴァンカトリック大学とは学術交流協定を結んでおり、大学訪問により直接の意見交換もできた。また申請者は4年前に「ベルギー研究会」を立ち上げ、ベルギー文化に関する学際的な研究活動を続けている。その中でオランダ語・ドイツ語に関する知識の提供を受け、また日本初のベルギーに関する学際的研究の共著を出版できた。現代ベルギー文学の翻訳企画も継続的に進めている。作家研究についてはマドレーヌ・ブールドゥクスの作品について口頭発表や論文発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの文献収集や国内外の研究者との共同研究や意見交換(26年度も継続的に行う)をもとに、本研究テーマについてのまとめと可能な範囲での成果発表を行う。また、それを踏まえて次の研究につなげる。 1)作家の作品分析、翻訳紹介を具体的に進め、ベルギーとヨーロッパや日本をつなぐ活動、伝統と前衛性の芸術観、民族や土地と結びついたナショナリズムと国際性の意味を探って行く:対象作家としては前年度までに扱った作家に加え、アメリー・ノトン、ジャン=フィリップ・トゥーサン、(研究会での翻訳企画行動研究とリンクさせた)ヘレンス、ゲルドロード、トム・ラノワなどである。 2)本研究の成果を、論文発表、報告書作成などの形で公表する。著書(ベルギーに関する学際的研究論文集の共著第2弾の企画をすでに始めている)や現代作家の翻訳紹介の形で出版する予定である。 3)フランス語圏周縁地域におけるアイデンティティの多層性について、ケベックで提唱されヨーロッパにも受容され始めた「移動文学」概念も取り入れて、本研究により浮彫りになるベルギー文学の(外向きベクトルの)移動性や揺らぎを、他のフランス語圏周縁地域(ケベック、スイスや北アフリカなど)との比較を通してさらに立体的に分析する試みへもつなげていきたい。
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