研究課題/領域番号 |
24520357
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
杉浦 順子 神戸大学, その他の研究科, 研究員 (30594361)
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キーワード | ルイ=フェルディナン・セリーヌ / ジャンル / 20世紀前半小説 |
研究概要 |
まず夏期休暇を利用したフランス滞在の成果について述べる。初年度の滞在では作家の作品に関する資料収集、閲覧が中心であったのに対して、平成25年度は閲覧する研究機関を国立図書館に絞り、理論面での文献参照、収集が中心となった。後述するように、ここで集めた結果は10月に行われた学会発表に、さらにその後の論文に反映させることができた。 次に本年度の実績として、日本フランス語フランス文学会の全国大会(平成25年10月26日、於:別府大学)で、初年度以来積み重ねてきた本課題の研究経過をまとめた、「セリーヌ作品におけるジャンルの問題―物語から抒情詩的散文へ―」と題する単独発表を行ったことがあげられる。19世紀を経た小説ジャンルそのものの変動を「小説の危機」と捉えたミシェル・レイモンの考察を入り口に、本研究課題の中心テーマである第一次世界大戦後の小説への抒情詩的技法の影響にアプローチした発表を行うことができた。とりわけ、語る主体のあり方から文学ジャンルに関する考察を掘り下げることで、作家が目指していた脱自然主義的小説の形をより明確に提示できたように思う。抒情詩的技法との関係だけに限定せず、文学ジャンルというより大きな問題性からアプローチしたことで、セリーヌ作品につねにつきまとっているジャンルの曖昧性にも言及することが出来、テーマとして膨らみを持たせることができた。今回の発表で開かれたセリーヌ作品におけるジャンルの問題は実に興味深く、小説と詩だけではなく、小説と自伝(オートフィクション)、小説と劇作品、小説と檄文との関係など、将来的に研究課題として分析を深められそうな可能性が見えた。 今回の発表の反省点として、準備時間の不足から細部の理論的な詰めが甘い部分がまだまだ散見される内容となった。その後の論文審査に向けて仕上げた論文で、こうした欠点を埋めるべく努力した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は夏期フランス滞在中に、本研究でもっとも積極的に取り上げる予定であるセリーヌの後期作品『またの日の夢物語』の草稿閲覧を予定していたが、その資料の閲覧が不可能であることが判明した結果、いくらか研究方向を修正せざるを得ず、全体に課題の推進は遅れ気味であった。平成24年度秋の学会発表でも、夏期の研究成果を十分反映させるには至らなかった。平成25年度はその反省から、現在閲覧可能な資料だけをもとに分析対象をあらかじめ限定し、むしろ理論研究に時間を割いたことで、計画段階で本年度進める予定であったテーマを、ほぼ予定通り、研究発表で取り上げることが出来た。 19世紀の自然主義的小説と20世紀的小説との対比から、処女作出版当時にはゾラと比較されがちだったセリーヌを、むしろ小説ジャンルの行き詰まりに直面した20世紀の作家たちと同じ場に位置づけ、さらに作家の最初期の作品と後期の作品を取り上げることで、その間の進展を具体的に指摘することができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
25年度は小説など散文文学における抒情詩的手法の影響を、「小説の危機」というジャンル発展に伴って生じた歴史的な現象を背景に考察をしてきたが、本研究課題の最終年度は、こうした小説ジャンルが技法的に到達した三人称物語から一人称叙述への移行と、歴史的な背景、すなわち第一次世界大戦という経験との関連、さらにそこから記憶のエクリチュールとしての小説ジャンルの特徴をあぶり出すことを目指す。セリーヌ作品でのおもな分析対象としては、引き続き亡命後最初に書かれた小説群『またの日の夢物語』を取り上げる。 最終年度にも夏季にフランスへの長期滞在を予定しているが、渡仏前に記憶とエクリチュールの問題を扱った文献で入手できるものに目を通しておくと同時に、2014年は第一次世界大戦勃発から100周年を迎える年であり、それに関連した資料が大量に出版されることが予想されるため、渡仏時に閲覧を速やかに行うべく、そのような新しい文献を随時整理しておく。また、11月に今年度の研究成果の一部を日本フランス語フランス文学会の中国・四国支部会で発表できるよう、やはり渡仏前にテーマをある程度絞り込んでおく。 渡仏の際は、パリの国立図書館、あるいはソルボンヌ大学付属の図書館に通い、日本では入手、閲覧が困難な批評書と最新のセリーヌ研究に重点をおいて資料閲覧を行う。同時に学会発表の準備をすすめていく。 年度後半は、学会発表をもとに本研究の最終段階として、いわゆる「物語」とは別の記憶表現のあり方としての小説エクリチュールの特徴を、セリーヌ作品に関しては、もっとも研究されていない後期の『またの日の夢物語』に研究対象を絞って検証し、それを同世代の作家のエクリチュールも引き合いに出しながら、20世紀前半のフランス小説の傾向の中におき直し、本研究課題の総括となる論文を仕上げたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
学会滞在時の旅費(飛行機費用)が、想定より若干安かったため。 今回の使用額の差額は、誤差の範囲内であり、最終年度の予算は計画通り請求し、使用する予定。
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