研究課題/領域番号 |
24520361
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
依岡 隆児 徳島大学, 大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部, 教授 (90230846)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 国際情報交換(ドイツ) |
研究概要 |
本研究は日本とドイツの文学の、戦争をめぐる議論・対話を調査し、戦後70年を迎えつつある現在、新しいグローバル社会に即した両国文学の役割を、それらの間の「対話」に着目して考察することを目的としていた。こうした観点から双方向的な対話に着目することは、グローバル化する世界の問題に対しても新しい視点をもたらすはずである。また日本のドイツ文学研究や日本文学研究とドイツ語圏の日本研究の間に学術的な交流をもたらすことも期待できる。 そこで、平成24年度においては、日本とドイツの作家の間で実際に行われた「対話」の研究を主として行った。具体的にはギュンター・グラスと大岡昇平の読売新聞における往復書簡についてと、同じくグラスと野間宏、小田実らとの1985年における日独文学者シンポジウムについて調べた。その成果として、平成24年9月に開催された関西大学東西学術研究初主催のシンポジウム「戦争の記憶と表象―日本、アジア、ヨーロッパ―」において、パネリストとして「戦争の記憶と表象の日独比較~ギュンター・グラスを中心に」という題目で発表を行った。日本文学や歴史学、さらに韓国の文学研究者たちとの交流を持つことができた。学際的に戦争の記憶と表象の問題を展開することができ、本研究の戦争をめぐる「対話」研究にも得るところがあった。 さらに、これをもとに成果報告書が25年度に関西大学から刊行されることとなった。また徳島大学総合科学部紀要論文『言語文化研究』第20巻(2012年12月)に「核の時代のギュンター・グラス~日独文学の「対話」研究」を発表した。 またドイツに出張し、ギュンター・グラス・ハウスなどを訪問して調査を行い、日本をモチーフとしたとみられるグラス手書きの原稿や絵を見ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「グローバル時代における日独文学の<対話>研究」という研究題目で、戦争にまつわるテーマでの対話を中心に研究していくという研究目的を掲げてきたが、作業にあたっては具体的には、当初以下の3点を研究内容として想定していた。すなわち、 ①日本とドイツの作家の間で実際行われた<対話>の研究 ②両国における相手国の戦争に関連する話題となった文学作品の受容研究 ③最終年の戦後70周年を記念しての「グローバル時代における戦争をめぐる日独文学の<対話>」というシンポジウムの開催、またそのための共同研究と準備、である。 このうち①の課題について平成24年度はギュンター・グラスを中心に日本の作家との「対話」を調査・考察することが有る程度はできた。またその成果として、平成24年9月に開催された関西大学東西学術研究初主催のシンポジウム「戦争の記憶と表象―日本、アジア、ヨーロッパ―」において、パネリストとして「戦争の記憶と表象の日独比較~ギュンター・グラスを中心に」という題目で発表してきたところである。さらに徳島大学総合科学部紀要に論文を発表したが、そこでも本研究の成果の一端を公表することができた。またギュンター・グラスの評伝(『ギュンター・グラス~「渦中」の作家』集英社、2013年)を刊行し、ここでもグラスと日本の作家との交流について強調した。 したがって、本研究において当該年度において、概ね順調に進んでいると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は日本とドイツの文学の、戦争をめぐる議論・対話を調査し、戦後70年を迎えつつある現在、新しいグローバル社会に即した両国文学の役割を考察することを目的にしている。そしてともに敗戦国となった日本とドイツが、戦争をめぐる「対話」を展開してきた点に着目し、それをグローバルな視点で検証しながら、両国の国境を超えた文学の連携・協働の可能性をさぐっていくものだった。 そのため、今後は上記の計画で述べた三点の重点課題のうち、引き続き①の日独の作家の間の<対話>研究を継続しながら、今度は②両国における相手国の戦争に関連する話題となった文学作品の受容研究 ③最終年の戦後70周年を記念しての「グローバル時代における戦争をめぐる日独文学の<対話>」というシンポジウムの開催、またそのための共同研究と準備にも、徐々に着手していくつもりである。 物品費でドイツ語圏の日本関連書籍と日本のドイツ語圏関連書籍の購入を引き続き、積極的におこなっていく。資料渉猟には特に力を入れ、従来注目されてこなかった日独間の文学的「対話」の実例を探っていく。 さらに年1回のドイツ出張や年数回の国内(東京)出張を積極的に行い、関連する施設(リューベックのギュンター・グラス・ハウスや東京文化センタ―など)や図書館においてさらなる調査を行っていく。その成果は学術論文として随時公表していく。また同様の問題意識を持つ研究者を見つけ、交流し、ゆくゆくは共同研究へと結び付けていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度への繰越額170,681円となったが、これは物品費でドイツ語圏の日本関連書籍と日本のドイツ語圏関連書籍の購入が思った以上に手間取り、当該研究費が消化しきれず、一部次年度に繰り越さざるをえなくなったためである。 次年度においては、この分を翌年度の物品費として計上している額に加えて、この種の書籍購入を積極的に行っていく予定である。また旅費については、本年度同様、次年度においても同様の旅行計画を立てているので、消化できるはずである。 それゆえ全体の研究の進展には大きな支障はないと考える。
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