本研究は日本とドイツの文学の、戦争をめぐる議論・対話について調査し、戦後70年を迎えつつある現在、新しいグローバル社会に即した両国の文学の役割を、それらの間の「対話」に着目して、考察することを目的としていた。このような比較文学的観点から双方向的な対話に着目することは、グローバル化する世界の対しても新しい視点をもたらすこととなると考える。また日本におけるドイツ文学研究や日本文学研究と、ドイツ語圏における日本研究の間に学術的な交流をもたらすことも期待できよう。
そこで、本研究では平成24年度においてギュンター・グラスや大岡昇平ら日本とドイツの作家の間で展開された「対話」を中心に研究してきたことを受けて、平成25年度にはさらに時代をさかのぼり、第二次世界大戦、およびその前にまで視野を広げ、日独の戦争にまつわる「対話」を文学の側面から調査・考察していった。平成26年度は引き続き、第二次世界大戦における日独の政治的接近に対してそれぞれの国の作家たちが文学・文化の面で取った態度などを、当時の雑誌や、翻訳刊行された相手国の文学作品を渉猟して、整理していくとともに、戦後の日独文学者の間での対話について資料調査していった。 そして平成27年度には、ギュンター・グラスと小田実との関係を中心に考察し大学紀要論文にまとめた。折からギュンター・グラスの死去を受け、日本におけるグラス研究者として紹介・追悼の原稿依頼に応えながら、改めてグラスの日本における存在の大きさに思いを致すこととなった。私はドイツのギュンター・グラス記念館にも訪問して、こうした日本におけるグラス死去について報告することもできた。最終的には、報告書を別途作成して、この期間に発表した論文や本の一節をまとめることで、社会的にも周知することにも努めた。
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