最終年度は特にフェヒナーとフロイトの関係に注目し、フロイトとフェヒナーの伝記的な並行性を論じたのち、フロイトのメタ心理学の領域の著作におけるフェヒナー思想からの影響を、1.力動的観点、2.局所論的観点から明らかにした。局所論的観点については、フロイトの『夢解釈』(1900年)、「日常生活の精神病理学のために」(1901年)および「機知とその無意識との関係」(1905年)を分析の対象とし、そのいずれにおいてもフェヒナーの夢理論の根本テーゼである「夢における舞台の交代(Schauplatzwechsel)」説をフロイトがそのまま受け入れていることを立証した。 研究期間全体を通じて本研究は、フェヒナー思想における自然哲学の自然科学的基盤を詳らかにし、その賦霊論・彼岸論の拠って立つ基盤が、フェヒナーが創始した「精神物理学」という新しい学問にあることを明確にした(平成24年度)。さらにフェヒナー晩年の、万物には魂が宿っており、それらは神の精神に包括されているという、汎神論的な「光明観」と称される世界観を浮き彫りにし(平成25年度)、最後にフェヒナーの後代への、甚大ではあるがこれまで余り注目されてこなかった影響関係を、フロイトにおいてトレースすることができた。もっともフロイトの場合のそれは、フェヒナーの汎神論を継承したわけではなく、あくまで夢に関する心理学的な理論に限定されてはいたのであるが。 研究計画に挙げたフェヒナーのベルクソンへの影響については、ノートを取るにとどまり、十分に論じることはできなかった。しかしこれについては、研究計画書にすでに記載していたように、ベルクソンとドイツ語圏の「生の哲学」の関係として別途取り上げる問題圏の中で、フェヒナーを参照するという位置づけで、再考する予定である。
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