研究課題/領域番号 |
24520363
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
高木 信宏 九州大学, 人文科学研究科(研究院), 准教授 (20243868)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 仏文学 / ヨーロッパ文学 / スタンダール / 近代小説 / 異文研究 |
研究概要 |
初年度(平成24年度)は研究の実施計画に従ってスタンダールの長編小説『パルムの僧院』(初版1839年)を研究の対象にとりあげて,作家の没後に刊行された同作のエッツェル版(1846年)とミシェル・レヴィ版(1853年)に含まれる異文の調査に着手した。 異文のリサーチに先立ち,まず作家の従弟にして遺言執行者であった編者ロマン・コロンが,どのような方針をもって死後出版に臨んだのかという問題を検討した。ただし,編集方針を明示する具体的な一次資料に乏しい現状にあっては,間接的なアプローチに訴えてコロンの意図を探らざるをえない。それゆえ,エッツェル版に収録されたスタンダールのバルザック宛未刊書簡に着目し,その活字化にいたった経緯を再検証することをもって,編集の基本的な考え方について考察する糸口にした。 コロンが書簡のオリジナルを転写せず,遺稿に見つけた手紙の草案3通に基づいて,同書簡のテクストを作成したことは先行研究の指摘するところである。この事実は,啓蒙主義時代の思想家シャルル・ド・ブロスの書簡集を編んだ経験があったとはいえ,コロンが今日の学術的な校訂版編集の原則から大きく外れた選択をしたことを端的に示している。しかしながら『パルムの僧院』を巡る作家たちの関係,手紙の内容,執筆の経緯等をつぶさに考察した結果,コロンの決断は,スタンダールの生前にバルザックが落掌出来なかった礼状を出版によって後者に伝達しようとする,いわば代理行為であったことが明らかになった。 このように故人の遺志を汲もうとする心理が強く働いた理由としては,コロンが幼少期より終生にわたって作家と親しく交際し,執筆活動を手助けしてきたという特殊な関係が挙げられる。従来の研究では看過されてきたが,かかるコロンの配慮こそ本文の校訂を含む編集の方針を規定する原則であったと考えられ,本研究成果の意義はそのことの指摘に存する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年(平成24年度)は「研究実績の概要」で詳述したように,まず編者ロマン・コロンの編集方針について調査・考察し,今後の研究を遂行する上で必要かつ充分な成果を得ることができた。得られた知見については,所属する九州大学フランス語フランス文学研究会の機関誌上ですでに論文にまとめて公表し,また今後は平成25年度日本フランス語フランス文学会春季大会(6月1-2日,国際基督教大学)の折りに開催される日本スタンダール研究会において口頭発表する予定である。 次にエッツェル版ならびにミシェル・レヴィ版『パルムの僧院』の異文の調査に関しては,平成25年3月に渡仏し,フランス国立図書館アルスナル館において後者の異文の調査を行い,またフランス国立図書館リシュリュー館においてはスタンダールの『パルムの僧院』自家用本のうち,ロワイエ本を閲覧し,作家による書き込み等の調査を行った。しかしながら2週間弱の短期期間であったため,異文の転写を完遂することができず,未調査の部分に関しては平成25年度に継続する予定である。もちろん,このことは想定の範囲内であり,研究計画に支障をきたすものではない。 以上に述べた本研究の進捗状況を踏まえるならば,交付申請書に記載した「研究の目的」の達成度についてはおおむね順調に進展していると判断することができる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては,現在までの達成度がおおむね順調であることから,申請書の「研究計画・方法」で述べた方針に従って研究を進める。まず平成25年度中にエッツェル版およびミシェル・レヴィ版『パルムの僧院』の異文調査を完了し,異文の実質的な分析にとりかかる。そのために,必要な文献の入手に努める一方で,フランスの国立図書館アルスナル館に赴いてミシェル・レヴィ版『パルムの僧院』の異文調査を継続して行う(エッツェル版については現物を入手することができたので,国内での調査となる)。さらに異文調査の結果に基づいて対照表を作成し,その分析結果を雑誌論文にまとめて公表し,かつ日本スタンダール研究会等で口頭発表する予定である。 平成26年度以降の研究の推進方策については,平成25年度における研究の達成度に応じて決定することになるが,現時点においては当初の計画通りに遂行できる見込みである。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度(平成25年度)の研究費の使用計画については,現在までの達成度がおおむね順調であることから,申請書の「研究計画・方法」に記した計画に沿って研究経費を支出する予定である。ただし,本年度は所属機関の本務との兼ね合いから渡仏調査を計画書の期間どおりに実施することができなかった。そのために「次年度使用額」として10万円を繰り越している。この「次年度使用額」については,当初の研究費の使用計画に修正を要するほどの額ではなく,平成25年度の使用枠内で適切に支出できる見通しである。 平成25年度は直接経費としての配分額90万円に前年度の繰越金10万円を合わせて,総額100万円を使用額として予算に計上する。その内訳としては,まず「物品費」として関連文献・資料の購入に20万円,つぎに「旅費」として渡仏調査のための経費に80万円をあてる。「消耗品費」としては印刷・複写関係品やパソコン関連機器等の購入に10万円を準備する。 なお,以上の研究費の使用内訳は申請書で示した使用計画をおおむね踏襲したものである。
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