研究課題
本年度(最終年度)は当初の計画通りに長編小説『アルマンス』と中編小説『カストロの尼』に関するヴァリアントの調査をおこなった。スタンダールの友人で遺言執行人であったロマン・コロンが校訂したミシェル・レヴィ版の両テクストをフランス国立図書館において実見後,複製を入手し,初版の本文との異同を考察した。その結果,いずれの死後出版テクストにおいても,文章表現のレベルでは異文と呼べるほどの相違はなく,句読点や数字表記といった面での違いにとどまっていることが明らかになった。したがって,スタンダールによる本文の加除の修正はミシェル・レヴィ版には反映されていないという結論に至った。以上の検証を踏まえて本研究の総括を行った。コロンの校訂による『赤と黒』『パルムの僧院』『アルマンス』『カストロの尼』のそれぞれでは,ヴァリアントの有無だけではなく,異文が死後刊行テクストに反映された経緯にも相違がある。コロンがスタンダールによる修正を反映させる意図をもって本文を校訂したのは『パルムの僧院』の場合だけだと考えられる。そうなった理由は,作家が死の直前まで同小説の第2版の出版を目指してテクストに手を入れ続けていたことを,彼が知悉していたからであろう。彼はスタンダールの遺した3種の手沢本の修正を検分し,さらには作家が死のひと月ほど前に行った文言の訂正にも目を通したうえで,取捨選択したヴァリアントをエッツェル版のテクストに反映させたのである。この点に関する研究成果・知見については,2015年5月に開催された日本スタンダール研究会(於明治学院大学)で口頭発表をおこなった。さらに学術論文(仏語)にまとめて,国際スタンダール研究誌『HB. Revue internationale d'etudes stendhaliennes』に投稿し,査読審査を経て掲載が決まっている。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件) 学会発表 (1件)
HB, Revue internationale d'etudes stendhaliennes
巻: 20 ページ: 未定
九州大学フランス語フランス文学研究会『ステラ』
巻: 34 ページ: 103-111
L'Annee Stendhalienne
巻: 14 ページ: 97-110
巻: 19 ページ: 299-311