研究課題
前年度に引き続き1940年代後半のサルトルの発表作品のうちで、ジャーナリストとしてアメリカに派遣された際に執筆した記事、帰国後の関連論考を精読し、アメリカに関する考察抽出を行い、それを分析する作業を行った。これらのコーパスから、サルトルがアメリカの現状を正確に把握しているという事実、その状況をフランスに積極的に発信しようとしていることが読み取れた。サルトルのアメリカ都市の描写は、エッセーであれ、小説であれ、ニューヨークが中心となっている。特に『自由への道』第三部の冒頭では、夏のニューヨークを彷徨する画家ゴメスの様子がきわめて写実的に描かれており、評論「植民地的都市ニューヨーク」でも具体的な場所の描写がつねに考察の入り口となっている。これらのテクストの記述と現実の場所との関係などを比較しながら、文明論的な観点も考慮しつつ、分析を試みた。その一方で、アメリカをめぐる考察は、他の知識人、政治的グループの意見との間の緊張関係の下でも展開している。この点を分析するために、アンドレ・ブルトンやクロード・レヴィ=ストロースなど、同時代のアメリカ在のフランスの作家や思想家との比較も試みた。また、サルトルの作品がアメリカのメディアにどのような形で、また誰によって紹介されかについても分析を行った。今年度に調査・研究した内容は、「野営地と廃墟---ジャン=ポール・サルトルの見たアメリカ」と題する論考にまとめ、澤田直編『移動者の眼が露出させる光景---越境文学論』弘学社2014)に収録された。また、アメリカを直接に題材としたものではないが、サルトルの写真論を日本語、英語、フランス語で発表した。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定どおりに研究は概ね順調に進捗している。研究成果は、直接に関係したものが一つの論考として、間接的なものが別の論考(日本語、英語、フランス語で公刊)として発表された。テキサスに保管されている草稿研究については、余裕がなくて果たせなかったが、これは全体の進展に大きな影響を与えるものではない。
これまでの調査研究の成果をとりまとめ、サルトルにおけるアメリカ体験がフランス実存主義にどのように反映されることになったのか、その見取り図を素描するとともに、サルトルだけでなく広く米仏の知識人の関係がこの後どのような進展を見せることになるのかについても一定の見通しを立てることにしたい。ヨーロッパ、アメリカでのサルトル学会などに参加して、積極的に意見交換を行い、最終的には報告書の作成に取り組む予定である。もとより、フランス作家とアメリカの関係はシャトーブリアンやトックヴィルにまで遡る連綿と続く系譜があり、サルトルのアメリカも、このような流れのなかで考えるべきだが、今回はそこまで拡げることはせず、あくまでもフランス実存主義の生成とアメリカ体験という点に焦点をしぼり、今後のより包括的な研究への基礎としたいと考えている。当初視野にも入れていた草稿研究の調査に関しては、今後の課題として、研究の焦点を絞ることにしたい。
予定していた資料の購入が、出版時期の遅れなどからできなかったため。物品費として、必要な関連資料の購入、発表論文などの郵送、文具などの消耗品を、旅費として、海外研究調査旅行の旅費、謝金として、外国語論文の校閲や資料整理を予定している。
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Etudes francaises, "Jean-Paul Sartre, la litterature en partage"
巻: le volume 49, numero 2 ページ: 103-121