最終年度にあたる本年は、これまでの膨大なテクスト分析および調査研究の成果をとりまとめ、サルトルにおけるアメリカ体験がフランス実存主義の形成にどのように反映されることになったのか、その見取り図を素描する作業を中心に行った。戦後のサルトルの実存思想の成立および形成に、アメリカというトポスが果たした役割はきわめて大きいという研究代表者の仮説は、大筋でその正しさが明らかになったと言える。このことは1.人的交流(ドロレス・ヴァネッティ、リチャード・ライト)、2.文学論(『文学とは何か』)、3.創作(『恭しき娼婦』『自由への道』)、4.思想(差別問題、植民地問題等)の四点から解明すべく努めた。 これまでサルトルすなわち反米という紋切り型の思考のために、サルトルにおけるアメリカというトポスは主題的に研究されてこなかったわけだが、アメリカという新世界において19世紀的な教養人であったサルトルがいかに20世紀の作家として脱皮することになったかを、四つの観点から検証することができたと確信している。 研究成果に関しては、学会発表四本のなかでその一端を好評したほか、自身が編著した『サルトル読本』所収の「共同討議 新しいサルトル像を求めて」「小説家サルトル---全体化と廃墟としてのロマン」などの論考をはじめ多くの論文の形で公刊した。また、2015年3月から4月にかけてパリ第8大学に客員教授として招聘された際には、授業や共同研究会の際にも、研究成果の一端を披瀝し、教員や研究者たちときわめて有意義な意見交換を行うことができた。これらの成果をとりまとめ、将来的には書籍の形で公開したいと考えている。
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