研究課題/領域番号 |
24520373
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
原 克 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (40156477)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 表象文化論 / 科学表象 / ポピュラーサイエンス / 科学ジャーナリズム / 通俗的科学雑誌 |
研究概要 |
本研究は20世紀に於ける「原子力エネルギー表象」の仮構性を表象文化論的に解明することを目指している。分析方法としては、「近代の科学神話」という枠組みの中で、とりわけ「原子力エネルギー」をめぐる大衆的科学表象に特化し、ポピュラー系科学雑誌に現れた「テキストの語り口」「図像的演出」に焦点を当て、原子力エネルギー表象が、より広範な科学信仰・進歩信仰を成立させてきた表象基盤構造と根本において同期性・根幹的連動性を有することを批判的に明らかにする。その分析作業を通じて、原子力表象・安全信仰が単独で生起してきたわけではないことを具体的に解析することにより、21世紀に求められるべき科学と大衆の新たな関係性をめぐる理論的視座を総体的な科学表象批判の観点から提言することを目指す。 本年度は上記の問題設定の下、とりわけ原子力発電システムとモダンライフの理念的・表象論的相互関係をあぶり出す基礎作業を行った。まず原子力発電システムに代表される遠隔地発電システムの歴史的展開と、それに対応した快適さを旨とする日常の消費生活(モダンライフ)との連動性とに焦点を絞った。具体的には1910年代以降の米国を中心に取りあげ、そもそも電気エネルギーの家庭内空間への進出とそれに伴う生活スタイルの変容・生活哲学の変移の実相を摘出した。 ここまでの時点で明確にしたのは、原子力エネルギー及び原子力エネルギー表象の前史(Vorgeschichte)としての「電気時代」の黎明期、「電気仕掛けのモダンライフ神話」の誕生の表象構造である。この分析作業が欠かせないのは、20世紀後半の原子力発電表象を語るためには、20世紀初頭段階における電化神話の成立を先行的に分析する必要があるからであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度本研究は具体的には20世紀のドイツ・米国・日本の「科学啓蒙雑誌」(所謂「ポピュラー系科学雑誌」)の表象分析という方法を採った。そこに表出された種々の「科学イメージ」の表象分析を通じて、20世紀大衆社会が獲得するに至った科学技術観が「現代社会の神話」として、20世紀大衆社会の言説の枠組みを形成していった過程を明確にし、そうした大枠の表象圏の内部に原子力エネルギー表象を位置づけ批判的に捉えた。分析対象は専門的科学者が発信する科学知識ではなく、20世紀大衆が共有した科学イメージつまり「大衆化した科学情報(ポピュラーサイエンス)」であった。一般に科学ジャーナリズムと呼ばれる情報メディアであるが、別して19世紀後半から流行するようになった科学啓蒙雑誌というジャンルを主要な分析対象とした。 本年度は欠損部分の資料収集に即刻当たることから始まったが、同時にこれまでに収集した資料の分析は既に進行しており、本年度に於いてもそれを継続・発展した。その際、従来の分析から解明された科学的主題全般の表象構造を前提としつつも、別して「原子力エネルギー」表象を中心に再収集・継続的分析を行った。具体的にはドイツ科学雑誌3誌と米国科学雑誌6誌及び日本科学雑誌3誌に掲載された同傾向の記事をテキスト分析し、写真・イラストを図像分析にかけた。 とりわけ本年度はこれまでの採択課題を継承し、広義の「大衆社会の表象分析」に決定的に欠落していた側面を補うこと。即ち単に原子力エネルギーの科学史・技術史としてではなく、大衆化した科学情報という媒介項を提出することにより、大衆の価値体系を構成するに至る広義な言説の枠組みを分析するという理論的可能性を提示することであった。「20世紀は科学の時代」だと評されるが、寧ろ「20世紀は科学神話の時代」であったと言うべきである。本年度はこうしたパラダイム転換の一部を遂行できた。
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今後の研究の推進方策 |
今後はこれまで同様欠損部分の資料収集に即刻当たることから始まるが、同時にこれまでに収集した資料の分析は既に進行しており、本年度以降もそれを継続・発展する。その際、従来の分析から解明された科学的主題全般の表象構造を前提としつつも、とりわけ「原子力エネルギー」表象を中心に再収集・継続的分析をおこなうことに変わりはない。具体的には上記ドイツ・米国・日本科学雑誌とならんで科学雑誌以外のメディアに掲載された同傾向の記事をテキスト分析し、写真・イラストを図像分析にかける予定である。かつて平成20年度末に刊行された著書『ポップ科学大画報』で取り扱った「ニューク・ポップ」(「大衆向け原子力エネルギー表象」の総称)を継続発展させて、本年度以降に於いても「原子力平和利用」、「ビキニ環礁水爆実験」、「アメリカン・コミックに於ける原子爆弾」、「ウォルト・ディズニーと核実験」、「原子力発電」等、20世紀大衆社会・大量消費社会の構成要素とされた「核の平和利用」表象圏について集中的に分析を進める予定である。これらの項目はいずれもその技術開発の時期が1940年代から1960年代と20世紀中葉に集中しており、現在収集済みの資料で充分カバーできる項目である。 以上の項目に加えて、さらに達成すべき成果としては新たに次の段階として「原子力エネルギーと未来構想」、「原子力日用品」、「原子力促成栽培計画」、「原子力エレベーター」等約20項目の分析に移る。
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次年度の研究費の使用計画 |
前々年度までの科学研究費によりPC等基盤的設備は整っている。従って現有設備を活用することにより新規の設備投資をせずに整理分析することが可能である。現有設備の広範かつ有効な活用方法といえる。尚、本研究の分析対象はドイツ・米国・日本の科学啓蒙雑誌(1900年~2012年)であるが、国内の大学図書館・研究所に於ける所蔵状況は前述したように極めて不充分なものである。しかし申請者は、ドイツ・米国・カナダ・英国の古書店とのネットワーク(計120店舗)を通じて個人的に数年来前述雑誌の発掘・収集に当たってきた。その結果、現在米国3誌に関しては創刊号から2013年3月号までのうち約9割強、日本の主要2誌に関しても完全な収集を終えており、ドイツに関しては主要3誌の収集に現在最大限努めている。こうした収集の結果、現在申請者が擁する資料は国内最大の蔵書量に達したと判定しうる。従って本研究の目的を遂げるのに必要最低限の資料は申請者の手許にある。 上記したように平成18年度採択の科学研究費によりパソコン等設備備品は整備されているので、本年度来年度に関して「設備備品費」の執行予定はない。
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