本研究は20世紀に於ける「原子力エネルギー表象」の仮構性を表象文化論的に解明することを目指した。分析方法としては、「近代の科学神話」という枠組みの中で、とりわけ「原子力エネルギー」をめぐる大衆的科学表象に特化し、ポピュラー系科学雑誌に現れた「テキストの語り口」「図像的演出」に焦点を当て、原子力エネルギー表象が、より広範な科学信仰・進歩信仰を成立させてきた表象基盤構造と根本において同期性・根幹的連動性を有することを批判的に明らかにしようと試みた。その分析作業を通じて、原子力表象・安全信仰が単独で生起してきたわけではないことを具体的に解析することにより、21世紀に求められるべき科学と大衆の新たな関係性をめぐる理論的視座を総体的な科学表象批判の観点から提言することを目指した。 その結果、当該の原子力エネルギー表象もひとり20世紀初頭原子物理学の学的言説によるばかりではなく、より広範に於ける数理的・数値計測課題についての学的・非学問的言説などが起動させるとりわけ「数学的合理性」表象の前言説的枠組みによっても極めて密接且つ錯綜した複合的表象関係をもつことがわかった。 わけても当該表象領野と20世紀初頭比較的深く関連するものとして、各個別技術に特化した論考シリーズ「モノ進化論」に於いて、例えば「天体望遠鏡」「卓上計算機」「電話」「灯台」「科学の黙示録」等の個別技術領域が発信する表象世界が、現代の表象的礎としての20世紀初頭、当該のエネルギー表象に必ずしも可視的ではないが精妙な表象連合関係といった社会的記号性の伝播関係をもつことを明示・暗示することをえた。
|