研究概要 |
ベケットとライプニッツの比較において、個と普遍、部分と全体の問題を考える上で重要な「入れ子宇宙」の問題を追及した。世界の中に世界があり、それが無限に続くような世界の見方は、望遠鏡による天体の観測や、顕微鏡による極微動物の発見という17世紀から18世紀における科学的発見の影響を大きく受けており、ライプニッツのモナド論もそうした科学の熱気の少なからぬ影響をうけた。さらに『ガリヴァー旅行記』の作者スウィフトも同じ時代を生き、入れ子宇宙を描いている。ベケットにおける入れ子宇宙の表象が、ライプニッツのモナド論からだけではなく、スウィフトからも影響を受けた可能性がある。つまりベケットースウィフトというダブリン生まれの繋がりと、ライプニッツースウィフトという同時代の哲学者と作家の繋がりの両者を観ることの重要性を、まずダブリンの国際ベケット学会で指摘し、さらに大幅に改訂したものを日本ライプニッツ協会で発表した。 メアリ・ブライデン編『ベケットと動物』(Beckett and Animals, Cambridge University, 2013)に掲載された拙論(An Animal Inside: Beckett/Leibniz's Stone, Animal, Human and the Unborn)は、ベケットとライプニッツの表象(鉱物、動物、人間、いまだ生まれざるもの)がいかに多くの共通点をもっているかを論じたものである。 ダブリンでの国際学会の前後は、トリニティ・カレッジ・ダブリンでベケットの草稿研究に従事した。1930年代のベケットの文学史、思想史をすべて見渡そうとする意欲に圧倒されながら「哲学ノート」「心理学ノート」を中心に、ひたすらマイクロフィルム化されたベケットのノートの文字を、パソコンに打ち込み続けた。ライプニッツがらみの要約文は、ヴィンデルバントの著書で確認した。
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