ベケット作品には、ライプニッツの形而上学が現れる。だがその目的や意義は解明されていない。本研究はベケットが執筆過程で数式や図表を多用していた事に注目し、その意味を考察するものである。 テクストが断片、非連続性を表現するのに対し、数式や図表は個や時空を超えた連続性、全知の視点から作品を構成する。とりわけ図表は『ワット』や『事の次第』の草稿に頻出する。ベケットの登場人物達は、徹底的に「個」の限られた視点から漠たる現実をむなしく捉えようとするが、他方で図表の使用は、全知の神の視点から全体を見渡していることを物語る。本研究はベケット作品におけるこうしたライプニッツ形而上学の両義性を指摘するものだった。
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