研究課題/領域番号 |
24520379
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 武庫川女子大学 |
研究代表者 |
野口 芳子 武庫川女子大学, 文学部, 教授 (30164685)
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研究分担者 |
溝井 裕一 関西大学, 文学部, 准教授 (60551322)
大野 寿子 東洋大学, 文学部, 准教授 (20397491)
山本 まり子 聖徳大学, 音楽学部, 教授 (00383448)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 「国際研究者交流」、ドイツ / ドイツ伝承文学 / ジェンダー学 / グリム童話の家族像 / 伝承文学の家族像 / 学際的研究 |
研究概要 |
9月7-8日、ドイツ・カッセルのグリム兄弟博物館で開催されたグリム兄弟協会大会で、代表者野口が招待講演を行った。演題は「グリム童話における7の数字―不吉な7の出現を巡って」(ドイツ語)で、ディアナやアルテミスなど豊穣の女神や太陰暦と結びついた7が、伝承文学では不吉な数として現れることをジェンダーの視点から論じた。この学会ではロータス・ブルーム教授と研究交流した。グリム博物館併設資料館では代表者と分担者が研究資料を収集した。 ゲッティンゲン大学文化学研究所ではメルヒェン百科事典編纂者(ウタ―博士)や国際口承文芸学会会長(マルツォルフ教授)と研究交流した。 9月5-6日、マールブルク郊外で開催されたドイツ民俗学会説話研究部門大会に参加し、多くの国の研究者と積極的に研究交流した。またマールブルク大学ヨーロッパ民俗文化研究所代表ベッカー博士とも研究情報を交換した。 10月20日、東洋大学創立125周年事業『グリム童話』刊行200年記念国際シンポジウムでグリム兄弟博物館館長ラウアーが基調講演、大野、野口、溝井、竹原が研究発表をした。 10月28日、科研費研究成果発表として「グリム童話刊行200年記念シンポジウム」を武庫川女子大学で開催した。テーマは「グリム童話とジェンダー―文字・図像・音楽にみる家族像」で、基調講演を協力者ラウアー(通訳:大野)が行い、野口、溝井、山本、竹原、金城ハウプトマンが研究成果を発表した。参加者は一般人も含めて120人ほどで、神戸新聞の記者が取材に現れ、関連記事が3回新聞に掲載された。取り上げた童話は「白雪姫」と「ヘンゼルとグレーテル」で、その中の家族像をジェンダーの視点から学際的に考察した。反響が大きく新聞やメールなどで、西洋中世の家族と近代家族との相違を知り、家族とは時代や社会によって異なるものであることがよくわかったというコメントがよせられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1.「グリム童話初版出版200年祭」のシンポジウムに必要な資料収集をドイツで行うことができた。グリム童話のジェンダー観はどの時代のものを反映したものであるかを学際的研究によって詳しく調査することができた。 2.グリム童話における夫婦像、親子像に焦点を当ててジェンダー観を考察した。その際、父王の娘へ近親相姦(Inzest)問題、息子と娘に対する扱いの相違(相続問題)などを西洋古代、中世、近代の法律、風習、社会などの側面から学際的考察を試みることができた(担当者は野口、溝井、山本) 3.上記の問題をグリム以外のドイツ伝承文学にまで拡大して考察する。これを豊富な伝承文学の資料を持つ竹原が担当し、白雪姫を例に挙げながら研究成果を発表した。ゲッティンゲン大学で博士号を取得した金城=ハウプトマンも現代における「ヘンゼルとグレーテル」の絵本を中心に改変問題を指摘する発表をした。 4.カッセル・グリム兄弟協会大会の出版200年祭シンポジウム(9月7-8日)で代表者野口は招待講演で、グリム童話における不吉な7の出現をジェンダーの視点から解釈する新学説をドイツ語で披露した。その後、竹原、溝井、山本、金城とともにグリム博物館併設資料館でグリム関係資料を収集した。 5.日本側は「グリムと民間伝承研究会」と武庫川女性学研究会が中心になって科研費による企画として10月28日にシンポジウムを開催し、グリム博物館館長B.ラウアー博士(協力者)や金城ハウプトマン氏をドイツから招聘した。グリム童話の世界での受容について挿絵からジェンダーを読み解く講演、家族像に焦点を当てた発表、討論会などを行った。 上記5点の研究目的は十分達成できたと思う。また、シンポジウムを一般公開したことで、多くの人々の参加が得られ、新聞に記事が3度も出たことにより、科研による研究成果を広く一般の人々にも還元する事が出来たと思う。
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今後の研究の推進方策 |
1.日本ジェンダー学会の学会大会を9月7日に武庫川女子大学で開催し、代表者野口は大会実行委員長として大会を運営し、シンポジウムを企画し、発表者として研究成果も発表する。大会の総合テーマは「伝承文学における父親像と母親像」である。日本、中国、イギリス、ドイツにおける伝承文学者による発表を予定している。この企画はドイツの伝承文学を他の国々の伝承文学と比較することによって、その特徴をグローバルな視点から把握できるようにするものである。 2.母性愛、父性愛の問題と絡めてジェンダーの視点から「子捨て」を検証する。子捨て問題を「間引き」を認める日本と「避妊や堕胎」を認めない西洋という視点から考察し、男尊女卑の日本と女性嫌悪(ミソジニ―)の西洋が持つジェンダー観の相違とは何かを日本と西洋を比較することによって明らかにしていきたい。 3.9月28-29日には日本独文学会秋季大会で、「グリム童話を中心とするドイツ伝承文学における父親像と母親像」というテーマでシンポジウムを企画している。科研メンバーである溝井、山本、竹原、金城ハウプトマン、野口による研究成果の発表を予定している。その際、質疑応答のなかでの問題点の把握と掘り下げを期待している。 4 6月下旬にリトアニアのビリニュス大学で開催される「国際口承文芸学会」で代表者野口が発表する。野口はそこでグリム童話の日本での受容問題に関する研究成果を発表する。グリム童話は初期の段階ではドイツ語からではなく、英語からの重訳という形で日本に導入されている。そこで野口は「英語訳によって導入された日本のグリム童話におけるヴィクトリア朝英国の影響」という題で、ジェンダーの視点から考察した論文を英語で発表する。それによって外国の文化を英語経由で受容する際に、英語圏以外の国々に生じる共通の問題を提示し、各国々における同種の研究の必要性を訴える。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度の残金6980円と25年度予算800000円の研究費使用計画は以下である。 代表者野口:物品50000,旅費640000,人件費謝金60000,その他56980円。
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