研究課題/領域番号 |
24520380
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 天理大学 |
研究代表者 |
大平 陽一 天理大学, 国際学部, 教授 (20169056)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 社会主義リアリズム / チェコ・アヴァンギャルド / プラハ言語学サークル / 亡命ロシア人 / ロマン・ヤコブソン / カレル・タイゲ / ヤン・ムカジョフスキー |
研究概要 |
1930年代後半、チェコ左翼文化人の間で――アヴァンギャルディストたちと共産党系文化人とで――戦わされた社会主義リアリズムをめぐる論争についての考察を深めるため、まずはその背景となっている両大戦間期のチェコにおけるチェコスロヴァキア、ロシア両国間の文化交流の事例として、文学研究史上名高いロシア・フォルマリズムからプラハ言語学サークルの構造詩学への影響について調査、研究を行った。 具体的にはロシア・フォルマリズム、プラハ構造主義の両方の運動で中心的な役割を演じたロマン・ヤコブソンが最終的に到達した「構造詩学」の中にフォルマリズム的なるものの痕跡を探り、ヤコブソンの構造詩学とやはりプラハ言語学サークルの構造詩学をヤコブソンとともに代表する美学者ヤン・ムカジョフスキーの所説との差異を浮き彫りにすることを試みた。 その一方で、構造主義以前のヤコブソンが、後にチェコスロヴァキアにおける社会主義リアリズムの推進者となるS・K・ノイマンのプロレタリア文化論に対し、ロシア・フォルマリズム的な立場から行った批判が、チェコ・アヴァンギャルドの理論的指導者の言語論、詩論に与えた影響を辿ることを通じて、構造主義者たちやアヴァンギャルディストたちと後年社会主義リアリズム擁護の論陣を張る左翼文化人との芸術観の相違を明らかにせんと試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
両大戦間期チェコ文化を考える上で、ボルシェヴィキ政権に反対してソ連を逃れ、チェコスロヴァキア政府の援助を受けながら研究や創作を続けた亡命ロシア知識人たちを無視することはできないことに遅ればせながら気づいたため、2013年に入ってからは亡命ロシア人文化についての研究にほとんどの時間を費やしたためである。
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今後の研究の推進方策 |
ロシアへの強い関心という共通項を持ちながらイデオロギー的な面で対立する亡命ロシア人たちは、社会主義リアリズムを最終的に否定するに至るチェコの左翼文化人(多くのアヴァンギャルディスト)たちや社会主義リアリズムを手放しに肯定した共産党系文化人とも論争的な関係にあった。論争的な「関係にあった」ということは、無関係ではなかったということであり、両者の関係の解明は、従来等閑視されていた亡命ロシア人とチェコ左翼文化の関係に、ひいては左翼文化内部における社会主義リアリズムをめぐる論争に新たな光を当ててくれるだろう。 そこで亡命ロシア人文化とチェコ左翼文化が交流する「場」となっていたかに見えるプラハ言語学サークルに注目し、言語学プロパーの問題ではなく、その言語論に及ぼしたユーラシア主義の影響やアヴァンギャルド擁護者であったヤコブソンと亡命ロシア人の文学研究者A・ベムとの交流などに焦点を当てるつもりである。
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次年度の研究費の使用計画 |
チェコにおける亡命ロシア人研究の中心であり、貴重な資料が所蔵されているチェコ国立図書館付設スラヴ図書館とチェコ・アカデミー付設スラヴ研究所での調査研究のために予算の全額を旅費に当てる予定である。出張は夏期休暇中の八月に実施したい。
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