本研究を通じ、タイ近代小説の構造的特質には通時的なものと共時的なものがあることが分かった。前者では、タイの小説が思想や宗教という大きな体系の一部を成しており、文学が哲学や思想にまで影響を及ぼしている日本とは正反対である。また表現手段についても、近代小説とそれ以前の古典文学では断絶がある。後者では、物語の構造がエピソードの連環に留まり、人間や社会が多面的、重層的に描かれていないことが判明した。さらに特定の作品をコード分析した結果、言論統制の時代には政府批判のため、暗喩などの手法が多用されたことが分かった。近代小説を構造、物語、思想によってジャンル分けできたことで将来のタイ文学研究の基礎が整った。
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