研究課題/領域番号 |
24520390
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
加藤 國安 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (70142346)
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キーワード | 子規 / 前近代から明治 / 漢籍調査 / 自筆漢詩の翻刻 / 東アジア漢詩圏 |
研究概要 |
「『子規全集』未収録・自筆漢詩抜萃写本―「雑記」第三号翻刻・ 解題」、及び「同 ―王荊公詩注・剣南詩鈔・歳晩類集」の改訂版を電子テキストとして公開、また「『子規全集』未収録・自筆漢詩抜萃写本 二 ―『随録詩集』第四篇(杜甫・陸游・梁川星巌・広瀬旭荘・大沼枕山)翻刻・解題」を報告書としてまとめた。これによりネットでその全文を入手し、検索・確認ができることとなった。子規の漢詩受容の一端が電子公開されたことで、内容の考察に踏み込むこむことに資するであろう。 さらに昨年、口頭発表したものを、『杜甫研究論集』の一編として「杜甫の越えてゆく言葉―子規の眼」を掲載し刊行した。これにより子規蔵の杜集から得た「悟り」がどのようなものであったのかを考察し、テキストに書き込まれた自筆の圏点や批点の分析から、子規が本物の詩人として脱皮する際に働いた促しの力を得たこと、不遇な中にあっても己を楽観する方法を見出したり、また万物の実相を深く洞察する視線をもって、自己の生を冷静に客観視する姿勢を学んでいたこと等を指摘した。さらに『子規蔵書と『漢詩稿』研究』を出版助成金を得て発表、ここでは法政大学子規文庫、国立国会図書館、天理図書館等の所蔵漢籍や写本と『漢詩稿』の詩句や詩想との対比を考察し、子規の漢詩受容の全体像(俳句との関連や王漁洋の詩論からの「写生」詩学の影響)を明らかにした。 また自身の招待講演として「近代日本を培った漢学」を報告、外国からは劉凡夫教授を招いて「近代中日交流の風景―清末の漢詩にある日本語」として講演をお願いした。子規及びその周辺を取り巻く漢詩文化圏の激変する状況について一定の成果が得られたと思う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
単著と共著が二冊刊行されたので、子規と漢詩の関係は随分明らかになってきたように思われる。ただし自筆写本の翻刻はまだ二点のみであり、『随録詩集』第一・二編などが残っている。これらの分析にはなお時間を要する。また明治期の漢詩結社の機関誌の調査 や、『満州日々新聞』紙面の漢詩欄の調査も未着手である。またその背後には、日本文化の基層としての漢文文化という大きな問題が控えている。これらを綜合した形で、近代の日本・中国文学の交錯する創造のダイナミズムを解明していきたく思う。
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今後の研究の推進方策 |
今回は自筆写本『随録詩集』第二編の翻刻及び解題を目指している。またそこに収録される日本・中国の漢詩文文化が時代を超えて愛された理由の考察を行う。さらに明治期の漢詩結社の機関誌の調査や、『満州日々新聞』誌面の漢詩欄の調査も行う予定である。明治になってこれまでにない漢詩隆盛の動きが現れてくる背景は何か。また日本人が異なるアジアの言語の位相から、どんな新たな意義や表現を掘り起こそうとしていたのか、等についても検討していきたいと考えている。
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