研究課題/領域番号 |
24520390
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
加藤 國安 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (70142346)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 子規 / 随録詩集 / 自筆写本 / 古文真宝 / 白居易詩集 / 上京後 / 学習内容 |
研究実績の概要 |
今回は子規自筆写本の中から『随録詩集』第二編のうち冒頭部に相当する『古文真宝』と見られる部分(一部)、続いて「白居易詩集」(一部)を中心にして、翻字と内容の分析を行った。まず前者から子規が学んだと思われることについては、1.孜々たる勉励を自らに課していること。2.民の暮らしへの気遣いを責務とするエリート意識を確認していること。3.超俗的高踏的な文人の生を誇らしく思う気持ちが見られること。5.李白の豪気さを気に入っていたと思われること。6.杜甫の李白への強い尊敬心に感じ入り、子規本人が少年期以来そのような交友に憧れていたと思われること。7.陶淵明や杜甫などの濃やかな日常観察の家族詠などは、後年の子規のリアリティ豊かな人間描写の一源泉となったと思われること等指摘できる。 次に、後者におけ分析結果だが、子規の抜粋した作品は、別集物としては清・汪立名編『白香山詩集』と、選集物としては『唐宋詩醇』『全唐詩録』『石倉歴代詩選』『佩文斎詠物詩選』『万首唐人絶句』等とよく重なること。またその採録を通して子規がどんなことを考えていたかについてだが、1.遠地の友を思う詩からは、遠く離れた松山の友らを思ったりしていたのではと想像される。2.その一方で、早く東京暮らしに慣れ根を下ろして活動せんという覚悟のようなものを覚えていたと思われること。3.その新楽府は、政治家を志す一面も有した子規の時事理解に役立ったと思われること。4.「琵琶行」の熟読により、「杜鵑啼血」に注目し自身の号の由来としたのではないか。5.閑適詩の瀟洒な味わいには惹きつけられたていたことだろう。それは「酔中題紅葉」詩に典型的である。6.旅がもたらすインスピレーションの大切さを学んでいただろうという等が指摘できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予想以上に自筆写本の分量が多く、また翻字に際しては可能なかぎり原本に即すこととしたために、異体字・俗字の処理に多くの時間がとられた事による。現今の漢字ソフトでは扱えない漢字がかなりあり、一部は手作業による合字を掲げている。ただ子規の写本の特色をよく理解するには、常用漢字のみでは捉えることができないため、あえてこのままの方式で進めていくつもりである。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、『随録詩集』第二編の後半の翻字と分析、及び『同』第一編の同様の作業を展開する。最後に『随録詩集』全体の翻字と解題を完成させ、子規がこの自筆写本を通して、どのようなものを吸収していたのかを割り出していく。またそれが子規の後年の文学営為の上で、どのような効果をもたらしたのかについても考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果の報告が一部、未提出分があったため。四月から五月にそれらをまとめて印刷の予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
研究成果を紙媒体として印刷し、主な図書館・国立国会図書館に寄贈する計画である。
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