本研究は研究期間全体を通して、『王勃集』佚文に対して、羅振玉・陳尚君の翻字をもとにその校勘と注解を行った。この作業とともにこの佚文がもつ価値について検討し、2編の論文にまとめた。その内の一編は『東方学』130輯(7月)に掲載が決定している(もう一編は掲載誌未定)。その他、日本に伝存する中国唐代の散文作品について、陳尚君『全唐文補編』の文字を校勘するという作業を行ない、『文翰詞林』については作業を終えた。より正確なテキストを提供するために、今後も作業を継続し、順次成果を公表する予定である。 本研究は中国人の作品のみを調査の対象としていたが、研究の進展とともに、中国の唐代に相当する奈良から平安初期の漢詩文もまた、中国古典文学の一翼を担う者として調査する必要を感じるようになった。特に散文に対しては、これまで充分な検討がなされていないと思われたので、台湾・韓国での講演の機会に、この問題について報告を行った。この時期の漢詩文を中国古典文学作品と捉える観点は清・陸心源の『全唐文拾遺』に示されており、これをより精密にし、またその作品が中国古典世界の広がりを示すもとして紹介する必要があると考え、作業を開始した。次に日本の古写本の価値を発見した楊守敬・羅振玉の研究にたいする調査を通して、このことに日本人の研究者も貢献していることを確認した。この問題は日中の学術交流史の重要な事実であるが、まだ解明されていない事実も多い。更に古写本がどこに保存され、いつ発見されたか。そしてそれはどのように影印されたかは、古写本研究の基礎作業であるが、確認が為されていない事実が多いことに気付き、特に印刷局の影印事業について調査を行い、その結果を発表した。
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