研究課題/領域番号 |
24520394
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
木津 祐子 京都大学, 文学研究科, 教授 (90242990)
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キーワード | 琉球 / 写本 / 官話 / 人中画 / 訓読 |
研究概要 |
昨年度の研究に基づき、京都大学文学研究科所蔵の琉球写本『人中畫』の調査を完成させ、『琉球写本『人中畫』四巻付『白姓』』を上梓した(京都、臨川書店)。また、法政大学沖縄文化研究所に所蔵される未完の稿本を調査し、欠落していた書名を『官話簡要揀選六條』と定め、その著者について考察、論文を作成した。この論文は、8月に開催された「第五回国際訳学書学会」にて口頭発表を行った(26年度出版予定)。 また、共同研究者として招聘された中国復旦大学にて、琉球通事と「通事書」について複数回の講演を行った(8月30日“異域之眼:日本人對中國風景的想象與運用”、9月18日“寫本與官話―談談《琉球王國漢文文獻集成》所收的官話課本”、9月25日“琉球通事的正統與長崎通事的忠誠―從兩地官話課本的文本談起”)。その内の一回は、昨年度に解題執筆の形で参画した『琉球王国漢文文献集成』全36冊(2013年8月出版)出版母体の復旦大学古籍研究所からの要請に応えたものであり、講演会の場で、当該研究所の編集責任者の陳正宏教授らと琉球写本について意見交換を行った。 8月には福州市を訪問し、琉球「通事書」に記された清代の史跡の現状を調査した。また、北京の中華書局図書館にて、中国唯一の繁本系刊本『人中畫』を閲覧し、京大所蔵琉球写本『人中畫』との比較調査を行った。その調査結果については、現在論文を作成中である。 12月には、日本に於ける漢籍受容と訓読の問題について、復旦大学においてワークショップ“日本「訓読」その歴史及び変化”を主催し、“訓讀”的轉變與擴展-以江戸時代的“崎陽之學”和長崎唐通事為例」と題する研究報告を行った。当ワークショップは、復旦大学中文系戴燕教授との共同開催であり、京都大学文学研究科からは大槻信准教授にも基調講演を行っていただいた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
京大所蔵の琉球写本『人中畫』付『白姓』全五巻について、異体字と加注文字列を詳細に調査し、全巻の翻刻を付した影印本を出版したことが、当該年度までの最も大きな成果の一つである。その基礎の上で、中華書局所蔵の刊本『人中畫』に関して、文字体系を実地調査し得たことも本研究目的遂行の上で大きな意義を持つ。その調査結果を論文の形で公表していくことが、26年度の大きな課題である。 さらに、琉球通事が編んだ写本群を、長崎通事の著述と比較し、広く同時代日本における中国学、特に訓読史の中に位置づけて、内外の学者とワークショップを開催したことも、重要な成果である。 以上の諸点から、本研究の所期の目的はおおむね順調に進展していると見なしてよい。但し、研究成果の副産物として、琉球写本の作成者集団についても、本研究代表者木津は従来知られていなかった新見解を獲得しつつある。写本と筆写者は不可分の関係にあり、写本作成者集団を解明することも、本研究にとって新たな目的の一つと見なし得る。その新たな目的に向けての作業も、今後同時に進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、『人中畫』写本と中国刊本との関係について、さらに詳細に調査研究を行う予定である。その為には、再度中国へ渡航して資料調査をする必要が有る。また、沖縄県立博物館所蔵の『白姓』と、他機関所蔵『白姓』(京大本も含む)との比較研究を行い、琉球通事の作成した「通事書」全体の成立背景について更なる探求を進めたい。また、「通事書」執筆に当たって主導的な働きを果たした主な通事集団に関しても、調査研究を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
予定していた出張が取りやめになったため。 26年度は、沖縄出張や東京出張を含め、数回の出張計画がある。
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