本年度は、平成26年度までに調査を終了した琉球通事編纂の官話学習書(通事書)について、オフィスアシスタントの協力を得て、すべて解読と入力を完了し、それらを統合した電子データとして作成した。その電子データの翻刻出版の業績として、内田慶市との共著『関西大学長澤文庫蔵琉球官話課本集』(関西大学出版部)を平成27年4月に公刊したが、データを用いての研究成果としては、「琉球通事的正統與長崎通事的忠誠ー从兩地「通事書」的差別談起」『翻譯與跨文化流動:知識建構、文本與文體的傳播 Translation and Transcultural Movement: Knowledge Construction and the Transmission of Texts and Literary Style』(台北:中央研究院中国文哲研究所)を10月に発表した。また、5月には、琉球通事書が用いる文体の特色を分析した「非漢語圏における中国白話文(Chinese Vernacular Writing in Non-Chinese-Speaking Regions)」と題する講演を行った。同じく5月に研究発表として行った「18世紀域外的「叙事」-以唐通事和荻生徂徠為例」は、これら通事書の文体の特色である「叙事」に着目し、同時代の日本の儒者荻生徂徠の言語実践と理論とを比較検討し、それらの同時代的共通性を解明しようと企図したものである。10月に行った研究発表「クレオール文学の担い手としての唐通事(1)-長崎諸寺をどう語るか-」は、テキスト分析により浮かび上がった通事書の特質を、一種の混交言語の書記形態と見なすことを提唱したもので、従来の通事書研究には見られない、新たな視点を提示したものである。
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