本研究では、日本国内に分蔵される琉球通事編纂の官話学習書(通事書)を広く調査収集し、その本文及び注文を解読し電子データ化するのが大きな柱であった。それを用いて通事書本文を分析した結果、琉球通事の中で鄭氏・蔡氏一族が官話学習上で重要な働きをしていたことが明らかとなり、現存テキストの中には彼らの官話学習の痕跡を残すものが存在することも判明した。また、琉球と長崎唐通事の通事書を比較した結果、両者は異なる言語アイデンティティを有し、実際に学んだ官話も異なる位相を示すことが明らかとなった。併せて、江戸時代の荻生徂徠が称した「崎陽之學」(長崎唐通事の唐話学)の実態を異言語習得の側面から分析した。
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