研究課題/領域番号 |
24520399
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
諸田 龍美 愛媛大学, 法文学部, 教授 (20304701)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 白居易 / 陶淵明 / 帰去来兮辞 / 自ら誨ふ詩 / 廬山草堂 / 帰郷 |
研究実績の概要 |
本年度の研究においては、陶淵明の作品や人生が、白居易(白楽天)の文学に多大な影響を与え得た理由を、本質的に解明することを試みた。特に、江州左遷期に詠ぜられた「自ら誨ふ」詩は、白楽天の「帰去来兮」辞とも言うべき、人生の転換期における決意を詠じた、重要な作品であることを明らかにした。 白居易と陶淵明との類似性については、従来、松浦友久の「詩的説理性」における類似という指摘がよく知られている。しかし、両者の類似性は、それのみに止まるものではなく、①自己時間の有限性に対する徹底した敏感さ、②自己の本来性実現への強い決意性、③〈自律の理/決意〉と〈他律の理/委順〉という〈相反する二面性の共在〉、等を指摘し得る。そのうえで、こうした心理構造や生の目的を共有している点に、白居易が陶淵明に共感を覚えた、本質的な要因があったことを明らかにした。 さらに、白居易にとって〈真の故郷〉とは、〈身心の安適〉であり、その〈安適や自己の本性を実現し得る場所〉のことであった。そうした〈真の故郷〉へと帰ることを目指す営為であったという点において、白居易の〈廬山草堂への帰郷〉は、陶淵明の〈園田の居への帰郷〉と本質を同じくする営為であり、①〈淵明の帰郷の、本質的再現〉であった。同時にそれは、〈内なる自然に聴従する〉という〈人間存在の真理〉を本質呈示している点で、②〈世界の本質の再現〉でもあったことを論証した。 以上とは別に、『白氏文集』巻六十、巻六十一の訳注稿を完成させ、『新釈漢文大系 第106巻 白氏文集 十』(明治書院)の一部として、刊行することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は白居易の「帰去来兮」辞ともいうべき「自ら誨ふ」詩を中心に、陶淵明と白居易との本質的な影響関係を明らかにし、学術論文として発表することができた。 また『白氏文集』巻六十、巻六十一の訳注稿を、明治書院「新釈漢文大系」の一冊(共著)として刊行することができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究によって、白居易と陶淵明との間には〈自己の本性を完遂する決意性〉が共有されていることが明らかとなった。それを踏まえ、今後の研究は以下のように推進してゆく。 1、白居易と陶淵明との比較研究。両者がどのようにして〈自己の本性の完遂〉を実現していったのかについて、具体的な作品(白居易では、忠州刺史以降の作品。陶淵明では、「帰去来兮」辞)を取り上げ、分析を加える。 2、白居易と陶淵明、両者に関係の深い土地(中国九江市など)を訪れ、現地調査を行う。 3、国内外の学会等において、上記の成果を発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
「その他」で必要な経費が予定より少なかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の物品費に含めて使用する計画である。
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