明治以降、原語原典、研究書、翻訳、解説書、一般啓蒙書といったおびただしい数量にのぼる書物が刊行され、多くの日本人を啓発啓蒙したことが想像される。それはとりもなおさず、複雑多岐に亘る近代日本人の精神の形成として具体化したということである。その実情を伺うのも、個々の書物を通じてである。だが、出版された書物は消費されると同時に散逸し、その大半は失われ埋もれてしまっている。誤解と誤記も山積みである。こうした状況の中で、近代日本に於けるインド学仏教学の成立と展開の様を、そうした膨大な文献資料の山の中に直に参入して読み解き、総合し、俯瞰する。そして資料そのものを発掘整理し、書誌学的に整備綜合すべく企図されたのが、本研究である。 予定の年限を一年延期して臨んだ真に最終年度となる本年は、いっそうのきめ細やかな資料収集と解読を継続し、その解析・綜合をさらに一段と意欲的に展開させ、欠落してした情報などを海外出張による調査などできめ細やかに補填して、書誌学的・文献学的に充実した研究論文の完成を目指すこととなった。 本年は、初年度、次年度などと同様に、資料収集と解読に基づく、近代日本におけるインド学・仏教学の成立と展開に関わる、やはり個別的な調査と分析の結果を、具体性をもった何点かの論文として公表し、方法論上の新たな試みである「エピグラフなどに具体化する、翻訳と引用」の観点よりの整理とその可能性を具体化した。
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