研究課題/領域番号 |
24520419
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
田端 敏幸 千葉大学, 言語教育センター, 教授 (00135237)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 複合動詞 / 転成名詞 / 平板式アクセント / 不完全指定理論 / Nonfinality |
研究実績の概要 |
諸般の事情で研究成果発表に遅れが生じ、研究を1年延期することになった。しかし、昨年度末から現在にかけて、論文二本を執筆し、いずれも査読のプロセスに入っている。また6月には日本音韻論学会の20周年記念大会があるが、そこでも研究成果をとりこんだ報告を講演する予定である。借用語音韻論はある言語が別の言語から語を借用する際に何が生じるかということに焦点をあてるが、申請者の関心はそれにからめて、語彙自体がもつ特徴(音韻、統語、意味)と複合語がもつ特徴(音韻、統語、意味)というより一般化した現象に進んできた。それは、単純語と複合語は語彙情報(本研究では音韻情報に重きをおく)に関して大きな違いを示すという見通しである。英語でも複合名詞アクセントは個々の語彙がもち情報ではなく、複合名詞形成というプロセスがもたらすものであるという仮説を立てることができるが、似たような現象が日本語の複合動詞とその名詞形の関係に観察される。一般にアクセント動詞を名詞化すると尾高アクセント(読む~読み)、無アクセント動詞の名詞形は平板式アクセント(のぼる~のぼり)として実現するのが決まりである。しかし、複合動詞は表面的にはアクセント動詞のようなふるまいをしながら、その名詞形(転成名詞)には動詞のアクセント情報が引き継がれず、必ず平板式アクセントになるという事実がある。これを説明するためには理論上どのような仕組みを想定すべきであるかというのが問題になる。結論的には、複合動詞とその名詞(例:「たち+あがる」~「たち+あがり」)が示すアクセント型は、複合動詞が固有のアクセントをもたない(語彙情報としてのアクセントは存在しない)ということに起因すると考えた。複合動詞にアクセントが必ずある理由は「複合語はアクセントをもたなければならない」という音韻制約にあるというのが現在の見通しである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
さまざまな事情が重なり、学会出張などが当初計画を下回った。その結果、思うような情報収集と発表活動ができなかったことは遺憾である。しかし春休みを利用した期間中に、なんとかこれまでの研究活動をまとめて発表する見通しがついた。現在まで論文二本を執筆し、学会での講演も準備中である。今年度中には、所期の目的を達成できる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究を踏まえて、デフォルト値の付与という考えを再考すべきではなかろうかという見通しをもっている。その一例は名詞がジェンダーをもつ言語の「デフォルト値」である。ドイツ語では die Burg(feminie)のような語彙情報(女性名詞)は Hamburg には引き継がれない。地名はもはや Ham+Burgという分析がなされず「地名」という語彙項目として話者のレキシコンに保存されると考えられる。そこで登場するのが「名詞はすべて何かのジェンダーをもたなければならない」という統語上の制約である。つまり、地名は個々の語彙が独自のジェンダーをもつのではなく、デフォルト値として「中性」の値が付与されるという分析が可能になるのである。
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