本研究は他動性に関する二つの仮説――他動性のプロトタイプ理論(普遍性)と類型論的仮説(スル型言語とナル型言語)――の関係に焦点をあて、両者の整合性の可否を検証し、より包括的な言語類型論の枠組みを構築しようとするものである。この目的の達成のために、本研究ではビデオ映像とイラスト画像による心理学的な実験手法を用い、日本語(ナル型)と英語(スル型)の他に、類型特徴の異なるアジア諸言語(韓国語、中国語、タイ語、マレー語、マラーティー語、テルグ語の6言語)の実際の発話資料を調査する。
本年度(最終年度)は、計画通りマレー語に関する二種類の実験調査(ビデオとイラスト)を行い(UTHM大学、2014年9月)、母語話者約110人の言語データが得られた。データには北部方言も混ざっていたため、今年度の3月に再び同大学を訪問し、データの注釈・翻訳並びに分析を完了した。また日中英対照研究を取り上げた成果発表も行った(下記参照)。類型論的には自他使用においてふるまいが異なるとされる日本語(ナル型)と英語(スル型)に加え、中国語を取り上げることによって、類型論的仮説とプロトタイプ理論との整合性を検証した。実際の実験データによると、他動性のプロトタイプ理論には疑問が生じる結果となり、特に英語と中国語では他動性の低い事象のほうが他動性の高い事象よりもむしろ他動詞文を多用する傾向が顕著に見られた。
マレー語を最後に8言語全ての実験調査が完了し、データの翻訳・分析も出そろった。本科研課題の研究により、他動性の高い事象と言語表現との相関関係および、非意図性や存在・所有・消失などの他動性の低い事象と言語表現との相関関係が実証的なデータに基づき、新たな理論展開ができるような土台が構築されたものと考えられる。
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