研究課題/領域番号 |
24520427
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
由本 陽子 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 教授 (90183988)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 事象叙述 / 属性叙述 / 動詞由来複合語 / 事象の有界性 / タイプシフト |
研究実績の概要 |
今年度はまず「名詞+動詞の連用形」型の本来事象を表す複合語が「の」を介して名詞を修飾しり、コピュラ文の述部に現れる場合について、そのタイプ分けと、それぞれについてその叙述機能を獲得するメカニズムについて考察した。その成果は論文”A consideration on type shift of compound nouns in Japanese."において公表した。この論文では、本来事象名詞として形成された動詞由来複合語が、タイプシフトを経て具体物を表す意味に変化したり、属性叙述機能をもつものにシフトしたりすることを述べた。特に後者のうち動詞が状態性のものの場合は(例えば「持つ」)、事象名詞としてよりもむしろ主語の属性を表す形容詞類としての機能をもち(「彼は金持ちだ」)、さらにそれがタイプシフトを経て具体物を表す名詞ともなりえる(「金持ちが株を買いあさっている」)ことを示した。さらに、同じ型の複合語で直接「する」と結合して動詞として機能するもの(「(ジャムを)瓶詰めする」)についても結果状態に焦点を移すことにより属性叙述機能を獲得し、コピュラを介して二次述語として用いられたり(「ジャムを瓶詰めにする」)、「の」を介して名詞を修飾したりできる(「瓶詰めのジャム」)ことを述べた。 今年度のもう一つの成果は、動詞の連用形を名詞化する際「ひと」を付加することで事象の有界性を明確に表す表現が可能になるという現象(例「ひと泳ぎする」)について、伊藤たかね氏(東京大学)、杉岡洋子氏(慶応大学)との共同研究によって考察し、事象を表す「ひと+動詞の連用形」にとどまらず、同じ形で具体物を測り取る計量詞的な働きをするタイプ(例「ひとつまみ(の塩)」)についても統合的に扱うことができる分析に到達できたことである。これについては、レキシコンフェスタ3での口頭発表を行い、専門家から好評を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は国立国語研究所で客員研究員として参加している大型プロジェクトの一環として執筆を依頼されているHandbook of Japaneseの原稿の再々にわたる改訂に時間と労力を摂られたことが本研究に集中できなかった大きな理由である。 また、事象叙述から属性叙述へのシフトについて、本研究では主に語彙レヴェルでの考察を中心に行うことを目指していたが、益岡(2008)が示しているように、文レヴェルにおいてすでにこの変換が起こっている場合があり、その文を基盤とした語形成が起こっていると考えるべきである事例が多い。たとえば、「彼は東大を出ている」という属性叙述文を基盤とした「東大出の男」における複合名詞がこれにあたる。このような例と、「パンが真っ黒に焦げた」に対する「黒焦げのパン」のような例とは同列に扱うべきではないと考えられる。両者を区別する基準が明確でないことにより、今年度の研究成果において示した分析にはやや混乱が生じてしまったように思われる。
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今後の研究の推進方策 |
他に参加しているプロジェクトがほぼ終結しているので、今後は本研究によりエフォートを注ぐようにする。 また、上記に示した分析を進めるにあたって前提とする観察をもう一度洗いなおしたうえで、改めてこれまで扱ってきた動詞由来の複合語についての考察を見直す。 また文レヴェルでの属性叙述に関する先行研究についても勉強しそれらの知見を語レヴェルでの分析に生かす道を見出す。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画していた海外での成果発表が私的事情により達成できなかった。 小野尚之氏との連携で進めている語彙意味論論文集の編集については、計画では頻繁に会議を開く予定であったが、お互いの都合がつかずほとんどがメールでの会議となった。
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次年度使用額の使用計画 |
成果発表の場として適当な国際学会があれば、それに参加すべく応募し、旅費として支出する。また、国内においても積極的に学会や研究会に参加し、専門家からコメントをもらう機会を増やす。本研究の一部は、小野尚之氏(東北大学)、伊藤たかね氏(東京大学)、杉岡洋子氏(慶応大学)がそれぞれ独自に携わっておられる研究課題と重なる部分があるため、これまでと同様共同研究として成果が出せるトピックについては積極的に共同研究のための会議も頻繁に開きたい。
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