研究実績の概要 |
昨年度に引き続き日本語の「名詞+動詞連用形」型複合名詞が、動詞を語根、また主要部としておりながら、本来表わすはずの出来事ではなく、物の属性や状態を表す場合(e.g.「レンガ造り」「黒焦げ」「袋入り」「さや付き」)を中心的に取り上げ、この解釈が可能となる条件を項構造を用いた形態統語的観点と特質構造を用いた意味的観点の両方から考察した。杉岡(伊藤・杉岡(2002), Sugioka (2001)など)の主張によれば、この条件は結合する名詞が主要部動詞の付加詞にあたるものであること、また、動詞から含意される結果状態を特定するもの、ということであった。本課題では、すでに、同型の複合名詞が動名詞として容認される(「する」と直接結合できる)条件についても、杉岡の主張に反し、項との結合でも可能であること(e.g. 「瓶詰め」「色付け」「ベンチ入り」「値上げ」「格付け」)を明らかにしているが、いわゆる「述語名詞」として属性描写が可能なものについても同様に、動詞の内項と考えられるものも存在する(e.g.「袋入り」「水浸し」「さや付き」「漆塗り」)ことを指摘し、これらの問題についてさらに原理的な説明を試みた。また、述語名詞として物の状態を描写する場合、すべてが動詞が含意する「結果状態」だともいえず、「会社帰り(の乗客)」「田舎住まい(の若者)」のような、いわゆる場面レヴェルの述語として解釈される場合があることを指摘し、杉岡の分析が妥当ではないことを示した。これらの知見については、由本(印刷中)において発表する予定であるが、残念ながら、最終的にどのような条件のもと、この型の複合名詞が属性叙述の機能を持ちうるかについての原理的な説明には至れなかった。
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