本研究は、さまざまな言語構造が符号化する手続き的制約の差異について考察するものである。分析の対象とした言語表現(構造)の中で、do it照応や空補文照応のような動詞句照応とdo thisのような直示的表現は言語形式そのものが、動詞句削除や自由拡充を要する構造および文断片的発話は論理形式内の欠損要素が、それを含む発話の意味解釈のための手続き的制約を符号化している。さらに、形式の有無の点で共通している構造については、手続き的制約が異なると言える。 言語形式と手続き的制約の関連において、do it照応や空補文照応は指示対象をコンテクストから義務的に補充するための意味的手がかりを符号化している点で飽和という表意構築プロセスと関わり、メタ言語的類似性あるいは解釈的類似性に基づいて指示対象を確定させる。それに対して、直示的表現は聞き手の注意を直示領域の一部である特定の項目へ向けさせる手続き的制約を符号化している。 手続き的制約に基づく言語機能の弁別化は、論理形式において欠損要素をもつ言語構造においても有効である。動詞句削除は統語的手がかりが義務的に非明示要素の補充を行なうため、動詞句照応と同様に飽和のプロセスと関わる。一方、文断片的発話の意味解釈には、自由拡充を要する構造と同様に、自由拡充という表意構築のプロセスが関わっている。論理形式を比べた場合、文断片的発話の意味解釈の際に補充する項の決定は、自由拡充を要する構造のそれよりも難しい。しかしながら、処理コストが大きいにも関わらず認知効果を生み出す(つまり、その伝達と認知が瞬時に行なわれる)のは、文断片的発話の使用の慣習と深く関わっているからだと言える。
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