今年度は、以下の事項を中心に考察を行った。まず、倒置指定文を措定文の倒置形であると考え、両者を集合とメンバーの関係によって捉えるPatten (2012) の議論の問題点を指摘した。措定と指定の区別には、名詞句の定性ではなく、文中における名詞句の意味機能の理解が重要であることを示した。次に、不定名詞句が主語の位置に現れた措定文の倒置形と不定名詞句を主語とする倒置指定文の相違を明らかにした。英語には、明示的な標識がないため、指定と措定のどちらの解釈が意図されているのか不明である場合も多いが、措定文に現れる叙述名詞句と(倒置) 指定文に現れる変項名詞句 (西山2003、2013) の相違を理解することにより、文の意味機能の区別が可能であることを示した。また、この二つの構文の比較を通して、様々な焦点化構文、倒置構文の情報構造の説明に用いられてきた「焦点」「際立ち」の概念が一様ではないことを明らかにした。さらに、人間を先行詞としながら、非制限用法の関係節内にwhoではなくwhich が現れるケースを検討し、単に、指示的、非指示的という区別ではなく、叙述名詞句、変項名詞句、特定的解釈/非特定的解釈をもつ名詞句、attributive / referential (Donnellan 1966) 用法の名詞句、など、名詞句の特性の様々な側面を統合的に理解することが重要性であることを論証した。 こうした考察に加えて、三年間の研究の総括を行った。当初の目標のうち、焦点の概念の精密化、日、英語の倒置指定文と倒置構文がそれぞれ有する指定と提示の機能の本質的相違の解明に関しては、十分な成果を上げることができた。さらに、代名詞の選択に関わる先行詞の意味特性を考察し、指定文、同定文、同一性文などの文タイプの相違をより明確にした。検討があまり進まなかった他言語との比較については、今後の課題としたい。
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