平成28年度は本研究の最終年度となり、これまでの調査で足を運べずにいた地域を訪ねて、引き続き方言音声の録音調査を行った。 まず、4月には岩手県最南端の宮城県との県境にある岩手県一関市を訪ね、市の萩荘市民センターのご協力をいただいて、高年層二人、中年層二人、小学生二人の方々の方言音声を録音させていただいた。一関市にはその地理的な位置から、南東北方言から北東北方言に向かう(あるいはその逆方向の)音声的特徴が何か見られるのではないかと考え伺った。 次に、6月には福島県の会津若松市役所のご協力を得て、高年層二人、中年層二人、小学生二人の方々の方言音声を録音させていただいた。高年層のお二人は会津若松市のボランティアガイドをしておられ、郷土に対する深い誇りが感じられた。11月には、岩手県盛岡市のもりおか歴史文化館のご協力により、高年層一人、中年層二人の方々の方言音声を録音させていただいた。中年層のお一人は、昔ながらの盛岡方言を場面によって自在に使い分けることができ、高年層以外にも方言に精通している方がおられるのは驚きであった。 また、平成29年2月には岩手県釜石市で高年層二人、中年層一人の方々のご協力をいただき、方言音声の録音をさせていただいた。釜石市は東日本大震災の被災地であるため調査に伺うことが少し躊躇されたが、岩手県沿岸地域の豊かな方言に触れて、同じ地域の中にも多様性が見られることを再認識した。 本研究では、これまで東北六県のいくつかの市及び町で方言音声の調査を行った。実際に各地域を訪ね、さまざまな方々とお会いし、お話をしながらその地域の言葉を録音させていただくと、それまでの想像を超えて、方言がいかにその地域の人々の暮らしや気持ち、また地域の文化や歴史と深く結びついたものであるのかを実感した。今後も引き続き調査を行いながら、東北方言に見られる音現象と音変化について探っていきたい。
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