研究課題/領域番号 |
24520439
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
中村 光宏 日本大学, 経済学部, 教授 (10256787)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 音声学 / 言語学 / 調音動作 / 言語使用 / 発音変異 |
研究概要 |
調音動作の弱化に対する音韻環境と単語頻度の効果を解明するために、2つの予備的分析を実施した。英語Lの母音化(e.g. milk>mi[u]k)と単語末の/t,d/削除(e.g. felt>fel_)を調査対象とし、舌尖動作の動態を測定、音響分析、統計的解析を行った。この予備的分析では音声・音韻現象と言語使用に関する新たな証拠を提示した。 英語Lの母音化の分析では、調音位置条件の仮説(舌尖調音は非舌頂音が後続する場合に空間的に弱化する)と頻度条件の仮説(調音動作の弱化は使用頻度が高い単語の方が大きい)を検証した。調音位置条件の仮説は、母音化ケースのみに有効であることが分かったが、仮説と矛盾する「後続音が舌背性子音の場合(e.g. small corner)に、舌尖配置が最も高くなる」という結果も得られた。この点を再調査した結果、単語の組み合わせ(e.g. Will you)に特徴があり、これは2語あるいはそれ以上の単語の組み合わせを分析単位とする必要性を示唆している。一方、頻度条件の仮説は、非母音化ケースのみに有効であることが分かった。この結果は、調音動作の連続的変化に対する頻度効果を示す証拠と考えられる。 単語末の/t,d/削除の分析では、削除を生み出す調音・音響的パタンと英国英語における当該現象の実態の2点を明らかにすることを目的とした。調音・音響的特徴の分類は、EPGとスペクトログラムに基づいて行い、その有効性を示した。また、先行音と後続音、単語の形態的特徴(単一形態素、規則変化/不規則変化の動詞過去形)に基づいてデータをコード化し、ロジスティック回帰分析によって解析した。その結果、後続音が最も強い条件(統計的優位)であることが分かった。また、単語の形態的特徴は、/t,d/削除の実現には有意義な条件とはならないという先行研究と一致しない結果も得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画の主要な課題は、特定の音声・音韻現象を対象とした予備的調査を実施し、その音声・音韻現象の実現に関わる主要な調音動態と音響的特徴を明らかにし、その生起傾向と使用頻度との関係を考察することであった。また、本年度の実施した予備的調査には、今後の詳細な分析を実施するための基盤を形成するという目的も設定していた。 2つの予備的調査を遂行し、それぞれの調査・分析結果を国際学会で報告することができた。予備的調査を実施することによって、事前に検討を要する分析方法についての課題が見つかったこと(e.g. 分析単位の問題)は、今後の調査・分析を進める上で貴重な発見であった。また、国際学会において得られた多くの建設的提案や意見交換は、今後の調査・分析に反映していく考えである。 来年度は、予備的調査の結果に基づき、より多くのデータを対象として、仮説検証、調査分析を進める計画である。これに加えて、本年度に分析対象とした音声・音韻現象とは別の現象についての予備的調査・分析も実施し、分析対象の拡大を図る計画である。 また、本年度は「調音動作の制御と頻度効果に関する先行研究」についての文献収集・文献復習を行い、サーベイ論文の執筆準備を進めることができた。今後、本年度の予備的調査結果も含めて、実験方法や実験結果、そして音韻理論に照合した場合の有効性について検討を進める計画である。 このような状況に基づき、本研究はおおむね順調に進展していると判断しました。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に得られた予備的調査結果に基づき、英語Lの母音化と単語末の/t,d/削除について、より多くのデータを集積し、次の①から③を中心として調査・分析・仮説検証を遂行する。①単語の出現頻度と音声変異の出現頻度:調音・音響的特徴と使用頻度の分析を行う。②音韻環境の相対的頻度と音声変異:音韻的要因の強弱・階層関係を,ロジスティック回帰分析によりモデル化する。③調音動作の弱化の実態と頻度効果を明らかにすることを試みる。 上述の調査分析に加えて、別の音声・音韻現象を対象として予備的調査を実施し、分析対象の拡大を試みる。分析対象は,硬口蓋音化,/t, d/の弾音化,音節主音的子音の形成を予定している。また、本研究の理論的基盤のひとつである「用法基盤モデル」に関する研究文献を収集し、実験方法と実験結果について詳細な検討を行う。 平成25年度に得られた研究成果は、平成24年度に得られた成果と合わせて検討し、音声科学・音声言語処理関係の国際学会に発表申請する予定である。現段階では、開催予定が確認できる次の4つの国際学会を候補と考えている:6th Annual International Conference on Languages & Linguistics(於ギリシャ:7月8日~11日)The 5th Conference on Quantitative Investigations in Theoretical Linguistics(於ベルギー:9月12日~14日)、The 44th Annual Conference of Australian Linguistics Society(於オーストラリア:10月1日~4日)、The 44th Meeting of the North East Linguistic Society(於アメリカ:10月18日~20日)。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度における研究費の使用計画を、3つの事柄に分類して記述します。 (1) データ解析:データ解析のためのMATLABと統計解析のためのSPSSについて、ソフトウェア保守サービス費用を措置する計画である。 (2) 文献収集:本研究課題に多角的観点から接近し、サーベイ論文を準備するために、本年度は「用法基盤モデル」に関する先行研究の文献収集・文献復習を行うための費用を措置する計画である。 (3) 国際学会における研究成果報告:平成25年度に得られた研究成果を、音声科学・音声言語処理・言語学の国際学会に発表申請する予定である。そのための費用を措置する計画である。現段階では、次の4つの国際学会を候補としている:6th Annual International Conference on Languages & Linguistics(ギリシャ:7月8日~11日)The 5th Conference on Quantitative Investigations in Theoretical Linguistics(ベルギー:9月12日~14日)、The 44th Annual Conference of Australian Linguistics Society(オーストラリア:10月1日~4日)、The 44th Meeting of the North East Linguistic Society(アメリカ:10月18日~20日)。 これらの発表申請が不採択となった場合には、Daniel Jurafsky博士とArto Anttila博士が所属するStanford Universityにおいて、意見交換と調査・資料収集のための出張を計画している。日程等については、十分に交渉と調整を行い、協力が得られることを確実にした上で実施する考えである。
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