研究課題/領域番号 |
24520442
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
藏藤 健雄 立命館大学, 法学部, 教授 (60305175)
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研究分担者 |
井上 雅勝 武庫川女子大学, 文学部, 准教授 (00243155)
松井 理直 大阪保健医療大学, 保健医療学部, 教授 (00273714)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 量化 / 文処理 / ガーデンパス効果 / 形式意味論 |
研究概要 |
数量詞の扱いに関してこれまでさまざまなアプローチが提案されている。1970年代の後半以降、生成文法では数量詞は意味解釈部門で移動すると仮定されてきた。モンタギュー文法を中心とする形式意味論でも、数量詞には通常の名詞とは異なる意味型があたえられている。では、このような特別な扱いをうけている数量表現は、オンラインの文処理にどのような影響をあたえるのであろうか。この点に焦点を当てた研究は多いとは言えない。とりわけ、日本語を対象とした研究は皆無である。 このような状況にあって、我々は、Kurafuji et al 2007, 井上他 2008 において、数量表現が文のオンライン処理に影響を与えるという事実を報告した。従来から「学生が/問題を/解いた/人に/礼を/言った」のような構文で、4番目に現れた「人に」のところで読解時間が増加することが知られていた(ガーデンパス効果:GP効果)。我々はさらに第1語「学生に」か第2語「問題を」のいずれか一方に量化表現である「すべての」を付けると第4語での読解時間が減少し(GP効果減)、両方につけると増加する(GP効果増)ことを発見した。 24年度は、この事実に対する理論的説明を試み8月に行われた認知科学会で発表した。そこでは「数量詞コピー操作は動詞が登場した時点で適応され、オンライン処理を遅延させる。ただし、パーサは複雑な構造を作ることを避けようとするので、2つの数量詞コピー操作を行うよりは、何も行わない方を選択する」という分析を示した。 また、24年度は、量化名詞/裸名詞がそれぞれどのように解釈される(傾向にある)のかを調査するための「診断表/問診票」の作成に取りかかった。この診断表作成は、調査者が言語学の専門家でなくても、数量詞を含む文がどのように解釈されやすいのかということが数値化できるようになるという点で重要かつ有用である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請時の研究計画では、計画初年度に、量化文解釈の調査を行う予定であった。この調査では、「すべての学生が問題を解いた」のような量化文がもつさまざまな解釈について、図像的に表した刺激を多数作成し、次いで、調査参加者に文を読んでもらったうえで、その文に対して得た解釈と一致する図を選択させることで、量化文の解釈傾向を量的に測定することが目的であった。 しかし、計画初年度に行った理論的検討によって、厳密な量化文の解釈パタンが多岐にわたることがわかり、さらにそうした解釈をイラストで表現すること、あるいはそれを描き分けることが極めて困難であることも判明した。さらに、単一の量化詞だけではなく、実数表現も含め、いくつかのことなる量化表現についてすべて検討することが必要であることも明らかになった。 そこで、イラストを用いる調査方法ではなく、複数の解釈の中から、被験者が最初に想定した解釈を一義的に抽出する問診マニュアルを作成することとした。問診マニュアルは大枠では出来上がっているが、複雑な例の扱いがうまくいかないところがあるので、まだ実施には至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
問診マニュアルを完成させ、25年度前学期中を目途にパイロット調査を行う。その後、調査結果に基づき質問項目を精査し、今年度中に、立命館大学、武庫川大学および神戸松陰女子学院大学で本調査を行う。 得られた各文の解釈選択率と、先行する科研プロジェクトで得られた実験のデータとを照合し、モデルの評価を報告する。具体的には「日本言語学会(秋期)」(応募締め切りは8月20日)等に応募する。また、国内の文理解研究者に呼びかけ、文理解メカニズムに関するワークショップを開催する。理論面が整備できた後に東京で行われている「意味論研究会」で発表する。その後、早い段階で論文にし、ジャーナルに投稿する。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度の交付金は1,100,000円である。これに、繰越金の520,933円が加わる。この繰越金は、調査方法の変更により生じた金額である。当初、量化文の解釈を調査する方法としてイラストを使用する計画であったが、調査方法を変更したためイラスト作成のための人件費を支出する必要がなくなった。今年度は、この金額をデータ処理のためのコンピュータ購入費および調査補助のための人件費として使用する予定である。全体の内訳は以下のとおりである。 設備備品 371,000円、消耗品 60,000円、旅費 583,000円、謝金 606,000円、 計1,620,000円
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