楠本は時の副詞節の時制解釈について、日本語、スラブ諸語、スペイン語、英語の比較研究を行った。具体的にはSharvit (2013)で提唱された、言語間の差異は時制形態素の意味の差異に還元されるという理論に反論し、時の副詞節の統語構造の差異が意味解釈に影響すると論じた。この結果をWorkshop on Theoretical East Asian Linguisticsで発表した。 また日本語とスラブ諸語の格交替現象の比較研究も継続して行った。特にスラブ諸語の格交替研究ではしばしば議論されてきた名詞句の(不)特定性について、日本語にも同様の理論を適用し考察した。 浦は引き続き「動詞句と節の双方が意味的に内包するaspect(相)に関する情報が、どのような形で統語論的及び形態論的に反映されているのか」という問題について研究を行った。より具体的には、マレイ語において動詞句の表すaspectの違いが受動態における動詞の形態変化の有無と目的語の格接辞の変化の有無とが一致する現象の統語的メカニズムの解明の研究を行った。また、スラブ諸語における文法的法(modality)と目的語の格形態との関連について、日本語の同種の現象との比較検討を行った。しかし、これらは人間言語におけるaspectの意味的・統語的差異がどのように形態的差異になって表れるのかという大きな問題に関与しているので、残念ながら決定的な解明までには至らなかった。
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