研究実績の概要 |
日本人英語学習者の単語切り出しの手がかりについて検討するために,Cole, Mo, and Baek (2010)を参考に,聞き取り実験を実施した。まず,VOAで提供されている英文ニュースを素材として,TTSプログラムによって速度調整をした刺激文を用意した。以下では,仮想的な母語話者としてディクテーションプログラムを用いて,単語が正しく書き起こしできた54文を利用した。18名の実験協力者に大文字・小文字の区別や文末句読点を削除して打ち出したプリントが配布された。彼らへの課題は,ルームスピーカから流される英語音声を聞いて,単語境界と思われる箇所にスラッシュを入れていくというものであった。 54個の英文は全部で377語から構成される。重複分を抜いてカウントした単語数は243語である。ここから文末の54個の音節を抜くと,単語境界でない音節区切りは262ヶ所,単語境界となる音節区切りは323ヶ所であった。 単語境界でない区切りをその通り判断したもの,および単語境界をその通り判断した(正答率)のはそれぞれ90.6%,70.2%であった。単語境界でない箇所に境界を聞き取った誤答のうち特に正答率の低いもの,逆に単語境界に対して境界を聞き取らなかった誤答のうち特に正答率の低いものを後続の文脈とともにまとめた。 単語境界の正答率から見て,日本人学習者にもある程度の単語境界の認知が可能だと考えた。単語境界でない箇所に境界を聞き取った誤答について (1) 誤答部分が別の単語として成立するもの (2) 親密度の低い単語 (3) 後続部分にアクセントの置かれるもの といった要因を指摘した。 単語境界に対して境界を聞き取らなかった誤答について (1) 親密度の低い単語 (2) 弱(+弱)というアクセントパタンが連続するもの (3) 音声変化によって区切りが分かりにくくなっているもの といった要因を指摘した。
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